7-2【思ってることは、一緒。だろ?】

 ☆バーグラー


「はぁ!!」


 もう何体目になるかわからない。それでも、怪物の数は確実に減っていってきていた。動きが、妙に単調なのが幸いだった。


 この城に、どれ程の怪物がいるかはわからない。が、このままいけば耐えしのぐことはできるはずだ。


 そんな時だった。突然怪物達の動きが止まり、ゆらゆらと引き寄せられるように外側に向かって歩き出す。


「なんだいこれは!?」


 そして、その怪物達はゆっくりとその身を投げ出していく。あっけにとられてそれをみつめていたら、二つの足音が聞こえてきた。


 バーグラーはナイフを構える。扉がギギィと重い音を出しながら開くと、そこには二人の影があった。


「こんばんは、お姉ちゃん達」

「ウ、アァ……」


 コウモリマントの少女、キャスター。そして、黒いスーツを着た少女、ガンナー。その、二人であった。


 しかし、ガンナーは死んだはず。つまりあそこにいるのは、ゾンビとなったガンナーだろう。


「……こんばんは」

「こんばんは」

「うふふ。うん、挨拶を返せるのはいいと思うよ?ね、お姉ちゃん!」


 キャスターはニコニコと笑う。もし、ここが殺し合いの場じゃなければ、本当に可愛らしい。そんな女の子なのだろう。


 だが、このキャスターはそのように見ることはできない。なんせ彼女は一番人を殺しているのだ。


 メールで読み取れるだけでも。ガンナー、テラー、ガードナー……そして、フェンサー。この四人を殺した。


 彼女がなぜそんなことをしたのかそれはわからない。しかし、危険極まりない存在というのは、わかる。


 自然とナイフを握る手に力が入る。このまま、折れてしまいそうだが、力を緩める気は、全く無かった。


「ねね、一つだけ提案があるんだけど、聞いてくれない?」

「……なんだい?休戦なら、快く受け入れ——」

「うんそう!休戦申し込みたいんだー!」


 まさかの提案。しかし、むしろ好都合だ。戦う気なんて、ない二人にとって、休戦の申し出なんて二つ返事で了承を返す。


「あっ、でも、休戦するのはね!」


 そう行ってキャスターは「かこめー!」と可愛らしい声で言う。それと同時だった。先ほど飛び降りたであろう怪物たちが、ゆっくりとはい上がってきたのだ。


 バーグラーたちをその怪物たちはぐるっと取り囲む。何が起きてるか理解するよりも早く、キャスターは口を開けた。


「休戦するのは一人だけ!だから、生き残った方だけと休戦するんだー!」


 そう言って彼女はにこりと笑う。その笑顔は、何か闇のようなものを孕んでるように見えて、バーグラーはぞっと背筋を凍らせる。


 生き残った方と休戦?つまり、今からランサーと殺し合わないといけないの?そんな思いが頭の中でぐるぐると駆け巡る。


 逃げようと考えたが、周りは怪物に囲まれ。さらに唯一の出入り口はキャスターとガンナーが陣取っている。つまり、逃げることは不可能。


 いや、時間が解決してくれるはずだ。今日を乗り越えれば、それで全てが解決する。だから、適当に戦って時間を稼げば……


「あぁ、もし1時間以内に終わらなかったら……みぃちゃんが叶える願い。ふたりをとっても痛くって、そして残酷に殺してってするかもー」


 もう、詰まれていた。


 足が震える。息が荒くなる。ここまで着たのに、ここまでたどり着けたのに、終わるのかと思うと、一つしか考えられない。


 ランサーも同じだろうか。彼女の顔を見ればいいのに、見ることができない。だって、バーグラーはもう決めているのだから。


 ナイフを握る手を強くする。息を吐き、気分を落ち着かせる。この選択は、確実に間違っていると言うのはわかる。なのに、なんで。


「ほらほらぁ?早くしないとランダムに殺しちゃうよ?」

「……バーグラー……?」

「は、はい……」


 ランサーの声が聞こえる。彼女はこちらを向いて、にこりと笑った。その顔を見て、バーグラーは少しだけ、安心した。


 だが——


「思ってることは、一緒。だろ?」


 瞬間、バーグラーの心に闇が入り込む。今まで見ていた、ランサーを信じることが一切できなくなり始めていた。


 視線が揺れる。殺すしかない。彼女も、私を殺そうとしてるのだから。だから、これは——


「一緒にキャスターを倒し……!?」


 正当防衛だ。


 ランサーの体に深く突き刺さるナイフが、彼女の答えとなっていた。

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