6-9【罪を背負うのは私だけでいいんだよぉ?】

 ☆キャスター


 ガンナーに頼まれたこと。それは一言で言えば怪物を大量に殺して来いというものだった。確かに、キャスター単体の戦闘力は低い。だからガンナーの頼みもわかる。


 しかし、キャスターはその言葉の裏には……違う意味が隠れているような気がした。だから、キャスターは殺せるだけ、怪物を殺した。なんとなくだが、多いほうがいいと思ったから。


 何十体の怪物を引き連れて、帰ってきたときにはすでにファイターが死んだという連絡が来たときだった。だから、ガンナーは圧勝したのだろうと、考えていた。


 だが、現実は違かった。そこに倒れていたのは、ファイターだけではなく、大切な人、ガンナーもだった。彼女は荒く息をしながら、そこにいた。


「ガンナーお姉ちゃん!?」


 キャスターはガンナーに駆け寄る。彼女は、目も開けずにキャスターの名前をつぶやいた。


 よく見ると、赤い血が少しずつ広がっているように見えた。なんでこんなことに。キャスターはそう思うが、慌ててテラーから奪い取っていた救急バッグを使う。


 だが、これといって変化は見られなかった。治療薬と書かれているものを飲ませているのに、ガンナーはだんだんと落ちていっているように見えた。


「ははぁ……どうやらつけが回ってきたみたいだねぇ……?」

「そんな!みぃちゃん、ガンナーお姉ちゃんなりの愛情もらってないよ!!」

「そういえば、そうだったねぇ……?」


 ガンナーは小さく笑う。そして、キャスターの方に薄目を向けて、にこりと笑う。あぁ、そんなかおを見せないでと、キャスターは怒鳴りたかった。


「愛情……与えるからさぁ……一つ、頼まれて欲しいんだぁ……?」

「……なに?なんでもいってよ!」


 キャスターは、笑う。やっぱりガンナーも愛情が欲しいんだ、と。そしたら色々な準備をしなければいけない。まずは服を脱がして——


「私を……国民にしてくれない……か、なぁ?」

「……は?」


 理解できなかった——それはガンナーからの言葉じゃない。その言葉を聞いての自分から湧き上がる感情——それが、理解できなかった。


 国民にしたかったはずなのに、なんでこんなに嫌だという気持ちが湧いてくるんだ。キャスターが杖を握る力を無意識に強くして、ガンナーの言葉を待つ。


「私はもう……長くない……んだよぉ?……だから、一思いに、さ……」

「で、でも!そしたらみぃちゃん、お姉ちゃんからの愛情が得られないし……!!」

「ふふっ……そうだねぇ……でも、大丈夫だよぉ?……だってねぇ……」


 ガンナーはゆっくりと起き上がる。座るのさえもう限界が近いはずなのに、彼女はそれでも優しく、キャスターに笑みを向ける。


 そのまま、ガンナーは前に倒れる。キャスターは慌てて彼女を抱き寄せると、ガンナーはありがとうと呟いた。


 とても弱々しかった。確かにこのまま経てば、ガンナーは死んでしまうだろう。それより先に、国民にすればいいというのは、わかるのに。


「これからの……罪を背負うのは私だけでいいんだよぉ?……だから、キャスター」


 待って欲しかった。でも、もう止めることはできないと、キャスターは心の中で理解できた。


「里中ミカ」

「……?」

「里中ミカ。それが。みぃちゃんの名前。お願い、最後に名前で呼んで……」


 そんな小さな願い。キャスターはそれを願った。名前を呼んでくれる人は、たくさんいたのに、なぜだか、彼女に呼んで欲しかって。


「ははっ……そうかい……じゃあ、うん……ミカ……」


 パパやママ。そして知らない男の人や女の人に、愛情を注がれながら言われた時とは全く違う。そんな優しさを孕んだ言葉を、キャスターは頭の中で繰り返す。


 もうそれだけでキャスターは、小さな愛情を感じていたのだった。


「殺して、くれるかい?」

「……うん」


 キャプターはそういって、ガンナーの心臓部分に、杖を思い切り突き刺した。一度の吐血。その後、ダラリと腕がキャスターの体から離れた。


 杖を抜くと、血が走る。ぐらんと体を揺らし、ガンナー床に倒れた。先ほどまでより、多い血が、あたりを赤く染めて行く。


「……なんで」


 ガンナーの体がピクンと跳ねる。これで彼女も国民になってくれたはずだ。当初から、そうするはずだった。だから、これでいいはず。なのに。


「……嫌だよぉ……ガンナーお姉ちゃん……」


 キャスターは膝から崩れ落ちる。そして、小さな声で……彼女は、泣き始めた。頬を伝い、下に落ちて行く雫は、ぴちょんとガンナーの血の中に混ざり、消えて行く。


 空は、暗い闇に包まれて行、今日という1日が終わる。そして、不思議なつながりの物語も……今日という短い1日で、二つ。終わってしまったのだった。


【メールが届きました】

【キャスターとガンナーが戦いました】

【結果、ガンナーは死にキャスターは生き残りました。キャスターには1ポイント。只今の合計は 6 ポイントです】

【残りの魔法少女は 3 名です。頑張ってください】


【生存者の3名の皆さん。お疲れ様です】

【これよりマジカル☆ロワイアル最終日を開催します】

【現在のトップはキャスターさんです】

【では皆さま、頑張って生き残ってください】

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