6-7【こういうのを背負うのが大人の役目だよねぇ?】

 ☆ガンナー


 ファイターの右腕を消しとばしてから、いくらか時間が経った。左肩の痛みは若干引いてきたが、まだ動けるまで行ってはいない。


 治りが遅くなっている。そう気づいた彼女は、小さく笑う。いつの間にかこの世界に慣れすぎていたのだ。


 しかし理には叶ってる。なんせ、もうすぐ最終日だ。傷ついても治るとしたら、皆隠れ出すだろう。生き残るだけだけなら、戦わなくていいのだから。


 さらに言えば、優勝を狙うならガンナー。そしてキャスターを殺せば良い。つまり圧倒的に狩られる側が有利なのだ。


 だからこその制約。ゲームのように時間がたてば回復というのをなくし、追い込まれる側の有利を消す。そういうことなのだろう。


(そういうのは先に教えてほしいものだけど……ねぇ?)


 ゲームを開く割にはこういう管理は雑だ。ルールも後出しのように追加されていき……本当にこれで運営ができているのだろうか。


「アハハハ!!」

「とっ!?今はそんなこと考えている暇じゃないねぇ?」


 飛んできた拳を避けて、ガンナーは銃を乱射する。殴られたら痛い。撃たれたら痛い。考えたらすぐにわかるし、さらに言えば右腕が治らないことに違和感を感じるはず。


 だが、彼女はもう異常だった、痛みも何も感じないのだろう。ガンナーは心の中で悪態をつきながら、距離をとる。


 近くの部屋に転がり込む。ここは先ほど探索した時に見つけた部屋で、所々に遮蔽物がある。


 ばんっ!!扉を破壊してファイターが中に入ってくる。ガンナーは机越しに彼女の額を狙い弾丸を放つ。


 本能かそれとも実は考えているのか——額に当たるはずの弾丸に対し、ファイターは体をずらして避ける。そのまま彼女は走り出した。


 ダンッ。壁に向かって飛んだかと思うと、彼女は壁伝いに走り出した。そのままガンナーの方に彼女は飛んでくる。


 慌てて机の下に転がり、それを避ける。大きな音を立てて崩壊する机を尻目に、ガンナーは銃を放つ。


「なぁ——」


 だが、ガンナーの攻撃は一つも当たらなかった。理由は単純に、ファイターが全て弾いたから。


「アハァ?アハハハ!!」

「化け物が——!!」



 撃たれても倒れない……まさに化け物。そんなものを相手どって、ガンナーもだんだんと冷静さを失って行く。


 それが一瞬の対応を遅らせた。


 風を切り飛んできたのは机の破片。いつもなら避けれるが……ガンナーは焦っていた。それでいて頭の中にある先入観があった。


 ——ファイターは殴ることしかできない——


 それが間違いと気付くのは遅かった。ガンナーは視界を一瞬遮られ、そのままファイターに殴り飛ばされる。


 壁に強く背をぶつけ、口から血を吐く。瓦礫が背中のいたるところに突き刺さっているのか、少し動くだけで全身に激痛が走る。


 そんな彼女のことなど関係ないと言いたげに、ファイターはガンナーの首を掴んで上に持ち上げる。ギリリとしまっていき、息がだんだんとできなくなる。


 ガンナーは地面に叩きつけられる。背中に食い込んだ破片が擦れていき、さらに肉が削れて、血の道が彼女の周りに出来て行く。


 足音が聞こえる。ファイターだろうか。前に一度戦った時と、同じような展開になっていることに気づき、ガンナーは内心笑う。


 ゴギィ


 ファイターがガンナーの片膝を踏み砕く。こりゃもうダメだ。そうガンナーは他人事のように考えていた。


 この傷じゃもう動けたもんじゃない……ならばどうするか。


 耳障りな笑い声を出しているファイターを見て、考える。そして、結論を出すのには時間はかからなかった。この時ガンナーは自分でも驚くほど冷静であった。


 無理やり足を動かして、ガンナーはファイターの足を払う。ファイターは後ろ向きに倒れてしまい、すぐに立ち上がろうとした。


 だが、それはガンナーによって遮られる。片足で器用に立ち上がり、そのままファイターに覆いかぶさったのだ。


 離れろと言わんばかりに、ファイターは何度もガンナーに拳を突き立てる。内臓がぐちゃぐちゃになって行き、口から多量の血を吐いた。


 死ぬのは怖い。可能なら死にたくない。しかし、あの子がこれ以上危ない目に合う方がもっと怖い。


 ガンナーはキャスターに少しだけ母性のようなものを感じていた。それが、間違いだったは思いたくない。むしろ、正しいことのはずだ。


 だからこれからすることは正しいはずだ。ファイターの背中に銃口を押し付けて、そしてガンナーは小さく笑う。


「こういうのを背負うのが大人の役目だよねぇ?」


 パァン


 乾いた銃声が響いた。弾丸は、二つの壁を突き破り、ただ前に前に進んでいった。


「あ、あはは……もに、たー……わたし、ばいった……い……」


ファイターはそう呟いた後、動かなくなった。それを見つめていたガンナーは、もう一度口から血を吐いた。


ぐらりと体を動かし、地面に横たわる。外を見ると、だんだんと暗くなって行くのがわかり、もうそんなに時間が経ったのかと思うと、途端に眠くなってきた。


ガンナーはゆっくり目を瞑る。起こしてくれる人は来るのかな。と、どこか遠く考えていたのだった。



◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【ファイターとガンナーが戦いました】

【結果、ファイターは死にガンナーは生き残りました。ガンナーには1ポイント。只今の合計は 5 ポイントです】

【残りの魔法少女は 4 名です。頑張ってください】

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