6-4【行けなくても行けますよ】

 ☆ランサー


「あんた、フェンサー……本当にゾンビになったっていうのかい?」


 ランサーは震える声を振り出し、そこにいる少女に声をかける。その少女は「あぁ」とか「うぅ」とか、およそ人の言葉じゃないものを出して、応えた。


 わかっていたことだ。だが、それを認めたくない。そんな自分がここにいたのは確かだ。


 ゆらり、フェンサーの体が揺れた気がきた。その瞬間、バーグラーの叫び声と、フェンサーが地面を蹴る音が聞こえてきた。


 慌てて体をずらし転がす。先ほどまでいたところにはフェンサーのレイピアが深々と突き刺さっていて、ゾッとする。


 そして理解する。この魔法少女は、もう私達を殺すことに抵抗はない……と。殺らねば、殺られる。


「バーグラー……もう、わかってると思うけど」

「はい……大丈夫です。分かってます。殺らねば殺られる」


 私と同じことを考えているのか。そう思うと、少しホッとする。そして、片手で頬を叩き気持ちを切り替えた。


 先に飛び出してきたのは、やはりフェンサー。ランサーと距離を詰めつつレイピアで攻撃を繰り返す。対するランサーも、槍をうまく動かし、攻撃を弾く。


 だが、ランサーは何も槍の扱いが上手い訳ではない。むしろ初心者だ。フェンサーも初心者だが、今の彼女には恐れはない。


 ランサーは踏み込めてない。人を殺すことの恐ろしさを。フェンサーはもう通り越している。人を殺すことの恐ろしさを。


 ガキンッ!


 金属がぶつかる音がして、ランサーの槍は弾かれる。無防備になったランサーのわき腹に、フェンサーの攻撃が深く突き刺さる。


「くぅ……っ」


 痛みで声をあげる。鮮血が飛び散り、あたりを赤く染める。フェンサーは勢いよくレイピアを抜き、そのまま頭を狙うため刺突しようとした。


 しかし、その攻撃が当たる前にフェンサーは体を無理やりねじり後ろを向く。そこにはナイフを振り下ろそうとしていたバーグラーが立っていた。


 突然こちらを向いたフェンサーに驚いたのか、バーグラーの叫び声がランサーに聞こえてくる。


 それと同時に、自分が食らうはずだった一撃をくらい、壁に飛び散る血も、同時に見えてきた。


「や、やめろっ!」


 ランサーは慌ててフェンサーをなぐりとばす。ぷちりと、虫を潰したような音が聞こえ、手には何かの血がついたいた。


 飛んだフェンサーは壁に背をぶつける。ランサーはバーグラーの手を引き立ち上がり、距離をとる。


 落ちている槍を拾い上げると、もうすでにフェンサーは立ち上がっている。ずれている頭を元の位置に戻し、ゆっくりとこちらに歩いてきた。


「まだいけるかい?バーグラー」

「はい……行けなくても行けますよ」


 そうだ。行かなくても行かなくてはならない。目の前にいる仲間は、今止めないともう止めることすら許されなくない。


 逃げてはいけない。あの日みたいなことは、もう2度と繰り返してはいけないのだ。ランサーは槍を握る力をさらに強くする。


「……あの時、見捨てた事。その精算を……あんたを助ける事で、つける!いくよ、バーグラー!」

「はいっ……行きましょう!」

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