5-7【このおばさんのわがままに付き合ってって事だよぉ?】

 ☆ランサー


「……信じ、られないねぇ……」


 メールを何度も見直してランサーはつぶやいた。セイバーが、アーチャーを殺したという内容は、おそらく事実だろう。


 セイバーもアーチャーも、信用していた相手だ。このメールからわかることは、ただ一つ。セイバーは殺し合いに乗っているということだ。


 バーグラーと顔を見合わせる。生き残ってる魔法少女は、はっきり言って誰も信用できない。


 キャスターとガンナー。そしてセイバーは確実にこの戦いに乗っている。ブレイカーとファイターは何がしたいかはわからない。だから、信用する事は難しい。


「どうしますが、ランサーさん。この先」

「次のエリアが解放されるまで待つ。ってのが普通だろうけど……ここで止まっちゃいけないと思うんだよ」

「……動きましょうか」


 バーグラーの言葉に、ランサーは頷く。どうせ待ってても地獄がある。ならば、今目の前にある地獄……フェンサーの事を、早めに解決しなければならない。


 太陽のような物はゆっくりと傾き始めている。あれが完全に傾くまでが、勝負だと、二人はお互いに言い聞かせたのだった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆ガンナー


 ベッドの上に座りながら、とても楽しそうにしているキャスターを見て、満足そうな顔で息を吐く。


 キャスターの周りには二人の魔法少女……テラーとフェンサーがいる。思わぬ収穫に、ガンナーはとても満足感に浸れた。


 もし子供がいたら、こういうことになるのだろうか。この道を選んだ時、もうこんな事はあり得ないと思っていたのだが。


「お姉ちゃんありがとー!国民が増えてみぃちゃんとっても嬉しいや!!」

「ふふっ……それはよかったねぇ?」


 子供が喜ぶと親も嬉しい。彼女の境遇は、あまり詮索してはいけないとは思う。しかしこんな素直な子に、彼女の父はあんなことをしていたのか。


(先生……これでいいのかなぁ?貴方もこんな気持ちだったのかなぁ?)


 先生。つまり、この殺しの道の師匠であり先輩であり恩師。そんな存在はガンナーにもいたのだ。


 ガンナー自身。身寄りがない子供であり、そして先生が拾ってくれた。彼がやっていく殺しの仕事を覚え、いつの間にか一人前の一歩前まで立っていた。


 仕事もこなし、数多くの結果を残した。しかし、1度だけ達成できなかった依頼がある。その依頼主は先生。そして、殺害対象は——


「ねぇねぇ!ガンナーお姉ちゃん!これからどうするの?」


 無邪気に彼女が言葉をかけてくる。その言葉でガンナーは現実に戻った。そうだ、今は目の前のことだけに集中しなければ。


「12時にエリア移動しなければならない。それまで可能な限り、力を温存しておきたいねぇ?」

「それじゃ、一緒に寝る?アラームは多分フェンサーお姉ちゃんがしてくれるよ!」

「……寝るかなぁ?でも、一緒には、きついかなぁ?」

「なんでなんでー?」


 キャスターはそういいながら、ガンナーに飛びついてくる。バフンとベッドの上に二人の体がつき、重なる。


 目の前にあるキャスターの幼い可愛らしい顔。しかしガンナーは知っている。彼女の可愛らしいのは、顔だけだと。


「気持ちいいことしない?みぃちゃん、女の人がどうされたら気持ちいいか、知ってるよ?」

「……ハハッ。ごめんねぇ?私は、お嬢ちゃんのことを、そんな目で見れないかなぁ?」

「なんで?みんなみぃちゃんが気持ちいい事をしたら、褒めてくれるよ?悪い事じゃないと思うけど」

「そうだねぇ?でも私は……私なりのやり方で、お嬢ちゃんと一緒になりたいんだぁ?」

「んーよくわかんないや」

「わかんないでいいよぉ?まあ、このおばさんのわがままに付き合ってって事だよぉ?」


 そう言ってガンナーは笑いかける。キャスターは納得してないようだが、すぐに「わかったー」といいガンナーの横に体をずらし、目を瞑った。


 しばらく経つと聞こえてくる寝息。それをBGMにしながら、ガンナーは立ち上がる。窓から、様を見ながら、スマホを確認する。


(死なないためにも……この子は守らないとねぇ)


 わがまま。そう、これはただのガンナーのわがままだ。そんな方にキャスターを巻き込んでいるのは、正直言って後ろめたいものがある。


「……とにかく、だ。こんなわがままに付き合ってくれるみぃちゃんは……守らないとね」


 そう言ってガンナーは太陽を見上げた。少なくともあれが消えるまでは、安全だろう。そう考え、彼女もゆっくりと目を瞑る。


 私もまだまだ子供でいい子になれる素質があるのかもね。そう誰にいうでもなく呟いた彼女は、浅い眠りに身を落としたのだった。

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