5-6【ところで一つ質問があるんだけど】

 ☆アーチャー


 普段ならきっとお茶の誘いというものにはホイホイと乗ったはずだ。しかし、今は違う。目の前にいる私をお茶会に誘った存在は、まさしく化け物の一言に尽きるのだから。


 ニコニコと笑う人間の皮を被った化け物。きっとこの場は逃げるべきタイミングなのだろう。彼女の強さは、目の前で何度も見てきたのだから。


 だけど。


「おや?弓を構えて……どうしたんだいアーチャー」


 ここでセイバーから逃げたらどうなるかわかる。時間が経ち、そうしたらブレイカーはおそらく彼女を倒そうとするだろう。負けると分かっているのに。


 もしくは逃げた後追いかけられてブレイカーがある場所に彼女がきてしまうかもしれない。


 どう転んでも、ここでなにもしないと言う選択肢はないだろう。戦うしかないのだから、アーチャーは迷わない。


 殺さなくてもいい。足止めをしろ。ブレイカーのところに向かう可能性を少しでも削れば、それだけでアーチャーの勝利だ。


 後ろに飛び、そのままの姿勢で弓を放つ。セイバーはそれを肩で受け止めて、血が流れつつもそれを気にしないと言うように矢を抜いた。


「成る程……それが君の返事か。まぁいい。それならそれに応えないとね。ところで一つ質問があるんだけど」

「………………」

「だんまりぃ?じゃあ、勝手に喋るけど……君のスキルって確かサーチアイ。どこになにがあるかなんとなくわかるんだろう?なかなかいいスキルだと思うけどさ……じゃ、その矢ってどこから手に入れてるんだい?」


 アーチャーは答えない。弓を構え、セイバーの目を狙う。


「ガンナーも特になにもなく無限に撃てるなら別だけど、彼女が無限に撃てるのはスキルのおかげ。じゃあ君は?答えは単純だ。弓を構え、そして放つ。この工程で初めて矢が補充されるんだ。ガンナーは弾を入れる作業はいらないけど君はいる。つまり——」


 アーチャーは矢を放った。それはまっすぐとセイバーの目に向かっていく。サーチアイの能力……狙えば、百発百中だ。


「どこにくるか大体の予想がつくってこと」


 が、しかし、それはセイバーが片手で受け止める。パキリと折れていく。アーチャーの瞳の中には、折れて、消えてく矢がしっかりと写っていた。


 確かに、アーチャーの矢はそうやって放つ。少し撃つまでのラグが、どこにくるか何となくわかるという結果を産み出してしまうのだろう。


 だからといってここで引くわけにはいかない。置いてかれるのは嫌だ。それに、いずれ不利益を産むのはわかっているのだから、ここで逃げる意味もないのだ。


 アーチャーは、腰を低めて矢を放つ。それをセイバーは剣で叩き折り、体に当たらないようにし始める。不死身でも当たれば痛いのだろう。


 ならば好都合。アーチャーはセイバーの周りを回るように走り出す。もちろん弓矢での追撃を忘れることはない。


「ちょこまかと——!!」


 たまらずセイバーは駆け出した。アーチャーに向かって一直線に。距離をとるため、後ろに飛びながら矢を放つ。


 サーチアイ。視線に入ればそこまで矢は飛んでいく。ある程度適当に打っても問題はないのだ。


 狙うはセイバーの片目。予定通りのルートを描き、矢はそこまで吸い込まれていく。もちろん当たることはなく、それをセイバーは弾いた。


 だが、それでいい。


「なっ……どこにいった……?」


 アーチャーの姿が突然消えたことに対して、セイバーの焦ったような声が聞こえてきた。もちろんアーチャーは姿を消すなんてことはできるわけがない。


 簡単だ。彼女は飛び降りたのだ。視線の先にあるのは、鏡。その中にはセイバーの姿がある——!!


 無数の矢がセイバーに襲いかかる。鏡の中にいる彼女の姿は、まるでハリネズミのように変わっていく。


 そのまま落ちていくアーチャーは、地面に思い切り背中を打ち付ける。けはけほと空気を肺から無理やり出しながら、ゆっくりと立ち上がる。


 とにかく今は目的は達することができた。少しでも早く、そして念のため遠回りをしながら、集合場所に行かなければならない。


 ドスン!!


 何かが降ってきた。それはアーチャーの前に現れて、こちらににじり寄ってくる。全身に矢を生やしたそれは、止まることがなかった。


「ここまでやるなんてね……でも残念、チェックメイトだ」


 化け物がそこにいた。


 アーチャーは慌てて弓を構える。しかし、そんな彼女の手はセイバーの剣によって切断される。鮮血が飛び、痛みで声にならない叫び声をあげる。


「あっはは。実は殺す気なかったけど気が変わったよ……死ね」


 セイバーの言葉とともに自身の体が何か冷たいものに突き刺されていく感覚に襲われていく。


 ぐちゃりと、音がして、ゆっくりと体全体でその冷たいものを味合わされる。けほっと空気とは違ったものを口から吐き出した。


「正直さ。ここまでやれるとは思ってなくて……でもまぁ、仕方ないだろ?それじゃ、また会えたらいいね」


 そんな言葉が聞こえたと同時に、アーチャーの体内から冷たいものが横から出ていく。それと同時に、湧き出てくるものの勢いで、アーチャーは横に倒れた。


 もうないはずの手を伸ばす。握ってくれるものも、握れるものもない。このまま消えていく命に、アーチャーはなにも思えなかった。


(置いてくって……こんな感じ、なのかな……)


 アーチャーは心の中でそう呟く。その言葉に反応するようなものはなく、首元に生暖かい鉄のようなものが当たる代わりに、だんだんと意識が消えていく。


 私が先に行ったら、ブレイカーはどんな顔をするのかな。怒るかな、悲しいのかなそれとも……嬉しいのかな。


 わからない。けれどもしどれがいいか選べるなら、私のために悲しんでそして怒って欲しい。アーチャーそう最後は願ったのだった。


 ◇◇◇◇◇


 ☆ブレイカー


「遅いわね……」


 ブレイカーはアーチャーと出会ったところでずっと待っていた。彼女と別れた後、3分ほども経ってなかったが、ブレイカーにとってはかなり長い。


 ピロリン


「……少しうるさいわね」


 ブレイカーのスマホが鳴り響く。それに対して一回言葉を返してじっと入口の方を睨みつける。


 早くきなさい。そう思いながらゆっくりと目をつむる。少しだけ、認めそうになってる自分に腹が立つ。


 ピロリン


「うるさいわ」


 ピロリン


「うるさい」


 ピロリン


「黙れ」


 ピロリン


「……」


 ピロリン


「……うるさい!!!」


 ブレイカーはスマホを取り出して壁に投げつける。カチリと音がなり、スマホの画面が明るく光り出した。


 それを見た瞬間、ブレイカーは壁を力強く殴る。そして、そのままずるりと体を滑らせて座り込み、体が震えていく。


 怒りからか?違う。これは悲しみだ。ヒーラーもアーチャーも、二人とも。ブレイカーにとっては大切な友人だった。


 それがたとえ、向こうからはそう思われてないとしても。利用されていると、分かっていてもだ。


「ふざけんな、ふざけんな!!必ず、必ず殺してやるわ!!セイバァァァアアァアァァアァァッ!!」


 その叫びが、辺りに響く。震える体をかき消すほど、あたりを震わす。ブレイカーはもう一度壁を殴った。


 音を立てて崩れた壁を見て、ブレイカーはゆっくりと立ち上がる。そして、スマホを踏み潰して、歩き出したのだった。



 ◇◇◇◇◇

【メールが届きました】

【セイバーとアーチャーが戦いました】

【結果、アーチャーが死にセイバーが生き残りました。只今のポイントは3ポイントです】

【残りの魔法少女は 7名です。頑張ってください】

【魔法少女の数が一定数減りました。よって新しい地域に移ってもらいます】

【本日の0:00に次の地域に移ってもらいます。今の地域にそれ以降も残ろうとしないようにしてください】

【では、新しい地域でも頑張ってください】

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