5-3【それは私が観客だからです】
☆ガンナー
「ん、んん……」
ギリギリと痛む身体を無理やり起こし、ガンナーは辺りを見る。確か私はファイターに襲われたはずだが……しかし今は、ベッドの上に座っていた。
キャスターが助けてくれたかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。少しだけ痛む身体を押さえながら、銃に少し手を当てようとした。
しかし、いつもあるところに銃はない。なるほどねと、小さく呟いてから入口の方を睨み見る。
少し時間が経ってから、そのドアが開く。占い師のような格好をした少女は、ガンナーをみて、あっと声を出した。
「ようやく起きましたか。おはようございます」
「おはようお嬢ちゃん?ところであんた、名前はなんていうのかなぁ?」
ガンナーの言葉に、少女は「テラーです」と一言だけ返す。そして、ガンナーと一定の距離を置きながら、ジッとガンナーを見つめてくる。
テラーをよく見ると、片手に銃。そして肩には大きなバッグを背負っていて、どうやら助けてくれたのは彼女で、さらに銃を取り上げたのも彼女のようらしい。
つまり抵抗はしない方がよさそうだ。ガンナーは両手をあげると、それをみたテラーは少し警戒しながら、ゆっくりとこっちに近づいてきた。
「まず手当てしたのは私です。それ相応の言葉を要求します」
「なるほどねぇ?それじゃとりあえず礼の言葉を…ありがとねぇ?テラー様」
そう言いガンナーはニヤニヤ笑う。その顔を見たテラーはため息をついて、カバンから小さな瓶を取り出した。
ちゃぽんと音を鳴らし瓶の中の紫色の液体が揺れる。ラベルにはこれ見よがしにドクロマークが描かれていて、テラーはそれを見せながら、口を開ける。
「これは、毒です。先ほどあなたに飲ませました」
「ほう?」
「わかってないんですか?この毒を飲んだあなたはやがて死に至ります。助けるための解毒剤は勿論あるのですが……」
「それを飲ませてあげるから、要件を聞けってところかなぁ?」
「ご自身が置かれてる状況がわかってない様子。あなたの命は、私が握っているんですよ?要件を飲まざるを得ないかと」
「ははぁ。まぁ、いいや。とりあえず聞くだけきいてみようかなぁ?」
「要件は一つです。私をあなたのそばに置いて欲しい」
テラーはそういうとガンナーは一瞬驚いたような顔をする。そして次の瞬間には大きな声で笑い出し、彼女を見る。
「へへぇ?面白いこと言うねぇ?」
「悪いことだけじゃないはずです。私はあなたのそばで戦いを見たり、このカバンで貴方の体を治療する薬をお出しすることができます」
「その前に一つ聞かせてもらいたいなぁ?なんでそこまでして戦いを見たいんだいぃ?」
ガンナーの言葉を聞き、テラーは天井を見上げる。そして、数秒の間をおいてゆっくりと口を開けた。
「それは私が観客だからです」
観客か。その言葉をガンナーは頭の中で何度も繰り返す。そして上げたままの手を強く握り、目を瞑る。
脳内で数多くのことを考えていく。過去現在、そして未来。全てのことに一つの結論を出し、ガンナーは口を開けた。
「それじゃ、私の答えを聞かせてあげるよぉ?私の答えは……ノー。だ」
その言葉とともにガンナーは飛び出す。突然のことで対処できないテラーはそのままガンナーに組み伏せられる形になり、床に背中を貼り付けた。
「な、なにを……」
「お嬢さん?色々勘違いしてるみたいだから教えてあげるよぉ?一つ。そんな毒ですって主張するような毒薬はない。一つ。そのカバンはおそらくヒーラーのだろ?死んだ奴が持ってるのをお嬢さんが持ってる。それは消えないってことはつまり、お嬢さんが付いてくる利点が消える。そして一つ……お嬢さんは観客じゃない。参加者さ」
その言葉とともに、ガンナーはテラーの手から銃を奪い、彼女の肩を撃ち抜く。走る痛みに、テラーは口を歪ませて叫び声を出す。
今度はガンナーはテラーの脇腹に弾丸をかすめる。血が飛び散り、ガンナーの黒いスーツを赤く染めていく。
「あっ!いや、やめ、やめて!!」
「ははは。お嬢さん?あんたは、参加者なんだから、もっと演じないとねぇ?」
ガンナーはテラーの首を抑え、銃口の先を彼女の
銃の冷たさを全身に感じたのか、テラーの顔はサッと青く染められていく。目には涙をためて、助けを求めるようにガンナーを見る。
「やめで!い、命だけは!命だけは助けてください!!なんでもしますからぁ!!」
「なにをいっているのやら……助けるわけがな——」
その瞬間、突然眩しい光が部屋を包む。なにが起きたかわからないガンナーは思わず両手で目を覆ってしまった。
その隙を逃すわけがない。テラーはガンナーを押し飛ばし、そのまま窓から外に出ていく。ガンナーが光になれた時には、すでにテラーの姿はなく、カバンと大きな本がポツンと落ちているだけだった。
◇◇◇◇◇
☆テラー
助かった。痛む身体を引きずらながら、テラーは己の運に感謝する。あの中の突然の光。それは、テラーの未来本だ。
あのタイミングで未来を出してくれたのはとても助かる。だから逃げることができている。代わりにカバンと本は置いてきてしまったが、命には変えられない。
もう観客なんて思わない。とにかく今は、逃げないと……そう思っていた時、誰かにどんっとぶつかった。
「す、すいま——!!」
テラーは慌てて謝って立ち去ろうとしたが、そうはいかなかった。そこにいたのは、まるでゾンビのような魔法少女だったからだ。
声にならない叫びをあげたテラーはそのまま気を失う。ゾンビの魔法少女は倒れたテラーと先の道を見比べて、彼女の脚をつかみ、引きずるように歩き出したのだった。
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