4-10【いい子になるかなぁ?】

 ☆ガンナー


 後ろに飛びつつ、構えた銃を目の前にいる狂人——ファイター——に向かい放つ。まっすぐ飛んでいく弾丸は、確実に相手の肩を貫いていく。


 しかし、それでもファイターは止まらない。笑い声を出し、それでもゆっくりと歩いている。もう何発も撃ったというのに、だ。


「——ちっ」


 ダンッ


 静かな住宅街に響く銃声。また弾丸はファイターを貫き、ようやく彼女はピタリと止まる。殺すわけにはいかないため、手加減していたため、これで終わるのかとようやくほっと胸をなでおろした。


「……たい」

「はいぃ?」


 ファイターが口を開ける。何を言っているのか聞こうと思った矢先、彼女はまた狂ったような笑い声をあげる。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!アハハハハハハ!!!モニターと一緒だがや!!!アハハハハハハ!!」


 また聞こえてくるその声に、ガンナーは舌打ちをする。これはここで殺してもいいかもしれないと思考する。


 そのとき彼女の姿を改めて見て、ガンナーはハッとなる。この少女は、一度私がキャスターを助けるために撃ち抜いたのではないか?なぜ、ここにいるのだ。


 キャスター関係で色々あり過ぎて忘れていた。生きてる死人として会いたかったものなのに、今のファイターはただの壊れた機械だ。


 とにかく動きを止めるため、頬の方に照準を合わせる。その瞬間、ファイターの笑い声はピタリとやみ、こちらを睨みつけて口を開ける。


「……殺す」


 ファイターが飛び出す。ガンナーは舌打ちをしながら、弾丸を放つが、それをファイターは紙一重で避ける。


 当たるはずだったのに。このとき彼女は、この戦いは異能力者同士の戦いだというのを思いだす。殺し屋という職業は、別にこの戦いで有利になるというわけではないのか。


 ファイターはそんなことを考えているガンナーに向かって拳を突き出した。ガンナーはそれを避けた後、クロスカウンターのように銃を突き出す。


 それはファイターの目の前に止まり、彼女は目を見開く。それを満足そうな顔で見たガンナーは、後ろに飛び立ち引き金を引く。


 バンッ!!ガンナーは反動を利用しファイターと距離をとる。残弾はあまり関係ないことは、ガンナーには分かっている。


 よくわからないがこの銃はリロード不要。しなくても、無限に弾丸が放てるのだ。いろいろな理由により、弾数はケチっているが。


「……やっぱりかいねぇ?」


 ファアターはそこにいた。ガンナーの一撃は、彼女にとって蚊に刺された程度なのかもしれない。頭から血を流しているが、倒れる気配はない。


 まだ笑っている。その声をやめろと、叫びたい気持ちに襲われたが、ガンナーはどうにかしてその気持ちを抑える。


 ガンナーは銃を構える。もう生け捕りなんて考える余力はなく、狙うは心臓ただ一つ。


 が、しかし。今まで攻撃を無視し続けていたファイターは心臓を狙われたと思った瞬間、突然走り出してきた。その勢いのまま、ガンナーをなぐりとばす。


 自分の口から血が出ていくのを見ながら「これだから嫌なんだよねぇ」と呟く。体を道路に擦りつけながらも、どうにか起き上がろうとした。


 しかし、そんな彼女の上にファイターはのしかかる。そのまま、ガンナーの顔めがけてなんと何度も拳を振り下ろした。


「壊れろ!壊れろ!!壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!!アハハハハハハ!!!」


 血が飛び散る。口から白く欠けた歯がどこかに飛んでいく。顔の形が変わっていくような、そんな気がする。


 私はここで死ぬのだろうか。死ぬのは嫌だが、ある意味ここらが潮時なのかもしれない。


 ——いや、違う。


 ここで死ぬわけにはいかない。私にだって意地がある。あんな幼い子が残るのに、私みたいなアラフォーがここで死ぬなんて、そんなことカッコがつかない。


(……そりゃそうだよねぇ?願いを叶えたいやつの方が、私より強い。覚悟があるからねぇ?……だったら、私もそろそろ……いい子になるかなぁ?)


 そしてガンナーは銃を構え、迷うことなく撃ち貫いた。


 自分の片手を。


「っ、ぐっ!!」


 痛みがさらに走る。しかしこれは授業料だ。こんな無駄な打ち方したら、弾数を気にする意味なんてない!!


 ダダダダダダダダ!!!


 ガンナーは一心不乱に弾丸を放つ。そんな甘いこと気にする暇なんて、ない。


 突然の乱射にファイターは大きく後ろに飛ぶ。身体中から血が出ているが、まだ動けるようだ。


 そんなこと想定済み。ガンナーは不敵な笑みを浮かべて、銃を地面に向ける。そして、先程のように乱射し始めた。


 上がる土煙。そんなちゃちな目くらましだが、いまはそれくらいで十分だ。ガンナーはその煙に紛れながら、近くの路地裏に走りだす。


 血が流れて、赤い足跡が出来ていく。そんなことは想定済みのガンナーは上に大きく飛んで屋根伝いに走り出した。いまはとにかく止血が先か。


(あ……やべ……)


 どれくらい走っただろうか。ガンナーはつるりと足を滑らせてそのまま地面に落ちていった。背中を強く打ち付ける。


 こんな最後か。呆気ないなぁ。そんなことを考えていた。


 そんな彼女の前に、一人の影が現れガンナーのそばに駆け寄る。その影を見ながら、ガンナーは意識を手放していったのだった。

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