4-8【誰かを信用しなきゃならないんだ】

 ☆バーグラー


「セイバーさんが……人を殺した……」


 先ほど届いたメールを確認しながら、バーグラーは呟く。まさかあの優しいセイバーが人を殺すなんて。そんなこと有り得ないと叫びたかった。


 しかし、そんなことはあり得てしまう。メールがそう淡々と告げているようで、バーグラーはその画面から目を背ける。


「……なぁ、バーグラー。もしかしたらって話なんだけどね」


 そう前置きを置いてから隣にいたランサーは口を開ける。曰く、正当防衛。サモナーに襲われ仕方なく撃退したという内容。


 ヒーラーを切りつけた時もルールを守らなかった彼女が悪いのであって、セイバーは悪くないのだ。つまりこのメールは正しいが正しくない。と、いえる。


 ランサーの言葉を聞いて、バーグラーは驚いた。まさか彼女がここまで冷静になっていたとは。守ると言ったくせに、これじゃ守られてしまう。


「すごいですランサーさん……食事会を開いたセイバーさんが、そんなことするわけないですよね」

「そうだよ!あたいたちは、誰かを信用しなきゃならないんだ。こんな世界だからこそ、ね!」


 ランサーは自分に言い聞かせるように口を開ける。しかし、その言葉はバーグラーにもよくわかる。だからこそその言葉を否定しなかった。


 しばらくして二人は笑いあう。バーグラーは、ランサーと共になら、どこにでも行けるような気がした。


 この世界から抜け出したら、二人で会いたい。そんな気持ちを持ち始めていたバーグラーは話題を変えるためにも、少しだけ勇気を持って彼女に声をかけたのだった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆ガンナー


 メールを一度見たあと、銃を眺めながらガンナーは呟く。どうやらサモナーという魔法少女がセイバーという魔法少女に殺されたらしい。


 隣でスヤスヤ眠っているキャスターを見ながら、ガンナーは小さくため息をつく。可能ならキャスターに人を殺させたいのだが、なかなかうまくいかないらしい。


 キャスターの能力は殺した相手を操れるというもの。どうやら指示は自分で言わないといけないというルールはあるが、あまり関係はないだろう。


 しかしキャスターが今操っているのはフェンサー一人。はっきり言ってこのままでは襲われた時——3人こちらにいるが——負ける可能性はある。


 一人は子供。そしてもう一人はその子供の指示がないと動けない人形。つまりキャスターが崩れたら、足手まといを抱えながら、ガンナーは戦うことになる。


 負ける。恐らくは、だが。死ぬ気はないし負ける気はない。こちらの分がかなり悪い今の状況。どうにかしないといけない。


 まずは殺せる参加者の発見。もしくは怪物を殺して回るか……どちらがいいか、ガンナーにはまだわからない。


 とりあえずキャスターが起きるのを待つか。そう思っていたら、彼女はいつの間にか目を覚まして、近くの戸棚を漁っていた。


 おいおい何をしてるんだい?そう言おうと思った時、彼女は棚の中から何かを取り出した。それはあまり見たことないが、確か性行為する時に男性が身につけるヤツ。


 おもちゃでも見つけたつもりかい?と思い、キャスターの目には悪いので取り上げようとしたが、キャスターはそれをじっと見て、一言つぶやいた。


「パパぁ……」

「……はいぃ?」


 その言葉を最後に、キャスターはまた深い眠りに入った。ガンナーは起きた時、彼女に詳しい話を聞こうと思い、ベッドの上に寝転んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る