4-6【勇者よ死んでしまうとは情けない】

 ☆サモナー


 お茶の誘い。そんな呑気なことを言ってきたセイバーの顔を壊すために、サモナーは飛び上がる。そして、彼女めがけて拳を突き出した。


 セイバーはわざとらしく慌てて家の中に転がり込む。サモナーは窓に手をかけてそのまま無理やり部屋の中に乗り込んだ。


 しかし、そのサモナーの顔には剣先が煌めいていて、その剣を握っている少女の方を見ながら、口を開ける。


「ずいぶんなご挨拶さね。誘いに乗っただけなのにさね」

「お茶は誘ったが、喧嘩には誘ってないぞ」

「ハハッ。これは失礼したさね!」


 サモナーはそう叫び、剣先を筆で弾く。そしてそのまま剣を握り。痛みが走る掌を気にせずに自分の方に引き寄せた。


 そして手の中で筆を回転。持ち手の部分で狙うはセイバーの右目。それはまっすぐとそこに吸い込まれていくように、進んでいく。


 セイバーはそれを避けるために、顔をそらす。そして、わざと体勢を崩しそのままの姿勢でサモナーの足を払う。


 同じように体勢を崩すサモナー。それを見た瞬間、セイバーは勢い良く剣を自分のように引き寄せる。その勢いで、サモナーの掌から鮮血が飛び散った。


 それを全身に受けるセイバー。口の中に入った血を床に吐き捨てて、サモナーを睨む。


「血を飲む趣味はないんだけどね」

「それは失礼なことをしたさね。まぁ、おかわりはあるから飲むだけ飲めっ!!」


 そう言ってサモナーは血の塊をセイバーに投げつける。べちゃりと音を当てて、彼女の目を潰す。


 セイバーの視線が一瞬で赤い闇に包まれる。その隙を見逃すほど、サモナーはバカではない。だんっと踏み込んで、セイバーの首元に向かって回し蹴りを突き刺す。


 セイバーは大きく吹き飛ばされる。壁に体をぶつけて、口から唾を吐き出した。サモナーは駆け出し、顔を潰そうと足を突き出す。


 その風圧を感じたか。セイバーは横に転がり、剣を構えて血をぬぐいこちらを睨む。剣を握る力は、強く。さらに睨む目も強く。


 しかし、セイバーは向かってこない。近くの扉をあけて外に飛び出していく。サモナーはもちろん見逃すわけがない。声には出さないが、走り彼女を追いかける。


 外に出た瞬間、セイバーは踵を返しこちらに向かってきた。成る程、そう迎え撃つつもりか。サモナーはしかし冷静に対処する。


 空中に書くのは【刺】の一文字。これによりサモナーはフェンサーのスキルを手に入れた。背水の陣。全て能力が何倍にも跳ね上がる。


 サモナーは大きく手を伸ばしてセイバーの首をつかみ、そのまま180度回転させる。ゴギリと嫌な音が響き、セイバーはそのまま滑るように倒れる。


 手をパンパンと叩き、サモナーはホッと息をつく。やはり死闘というのは、どんな娯楽よりも素晴らしい。遠くからこちらに走り寄ってくるテラーの方を見ながら、しんぱいするなと声をかけようとした。


「——なっ」


 しかし、体は動かない。まるで、逃げるなと言われているかのようだと、サモナーは考える。そして後ろから気配を感じそちらをゆっくりと見る。


 ゆらり——


 幽霊じゃない。しかし、そこにはセイバーがゆっくりと立ち上がる姿が確かにあった。そして彼女は首を元に戻しつつ、口を開けた。


「勇者よ、死んでしまうとは情けない……ってね」



 ◇◇◇◇◇


 ☆テラー


 まるで、恐ろしい劇を見ているかのようだった。死んだと思っていたセイバーが生き返り、また死に、また生き返る。それを繰り返していた。


「セイ、バー……!!その力、は……!!」


 何回殺したか途中から数えてない。とにかく何十回目のセイバーを切り捨てながら、サモナーは声を出す。


「これが僕のスキルさ。勇者よ死んでしまうとは情けない……ほら、勇者って死なないだろ?」


 そういうセイバーは笑う。サモナーは疲労により笑うことはできない。それをテラーは遠くから見つめることしかできなかった。


 セイバーと背水の陣の相性は最悪であり、敵を殺さないと終わらないスキル。つまりは——死なないセイバーを相手にした場合——待ってるものは一つしかない。


 体が震えるのは遠目でもわかる。しかし、サモナーは前に進むしかなかった。震える拳を握りしめて、大きく振りかぶる。


「はぁ、はぁ……ま、まだ……まだ!足りないさね!全然!これっぽっちも!!」


 サモナーは拳を突き出す。それはセイバーの右胸を貫くが、セイバーはそんなこと関係ないというように、高々に剣を掲げた。


「終わりだよ」


 その一言とともに振り下ろされる剣。サモナーは避けることすらできずに、体を左上から右下に向けてまっすぐと斬り降ろされた。


 サモナーはそれにより後ろに下がってしまう。そして、かはっと口から血を吐いて、そのまま倒れていった。


 セイバーはそんな彼女を見ながら、テラーを見る。その目から感じるのは戦うのかという疑問というものである。


 テラーは刺激的な展開は好きだ。しかし、死にたいと思うわけがない。テラーは後ずさりをして、そのままどこかに走り出す。


 今は、ただスマホから聞こえる電子音が、彼女の頭の中に入り込んで、ぐるぐるの周り続けるのであった。



 ◇◇◇◇◇

【メールが届きました】

【サモナーとセイバーが戦いました】

【結果、サモナーは死にセイバーは生き残りました。セイバーには1ポイント。只今の合計は 2 ポイントです】

【残りの魔法少女は 9名です。頑張ってください】

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