4-4【楽に死にたいだけなのに】
☆サモナー
その日の夜。サモナーとテラーは未来本に写った内容を何度も見返していた。内容は至極簡単に一言サモナーが死ぬとだけ書かれていた。
それを見てサモナーは苦笑する。まさかこの命が今日までとはね、と。未来本に書かれている内容なら、嘘はないだろう。
後悔がないといえば嘘になる。しかし、もう生産は死んでいるのだ。今更抗おうと言うつもりはさらさらない。
「……サモナーさん」
テラーが心配そうに声をかける。その顔を見て、サモナーは心配しなくていいとだけ声を返した。事実、心配はしなくていい。
この未来本の嫌なところは、死ぬとは書かれるがいつ死ぬとは書かないこと。今から死ぬ可能性もあるし、今日という1日が終わる瞬間、死ぬ可能性もある。
「さて……とりあえず寝るさね」
その言葉にテラーは反応しない。サモナーはテラーの返事を待つ前に、ごそごそもベッドの中に体を滑らせた。
布団を被り、目を瞑る。その後ろでは、未来本をジッと見つめているテラーの姿があったのだった。
◇◇◇◇◇
☆ブレイカー
彼女はガタガタ震えていた。殺し合いをしろとの宣言の後、森の中をいつ襲われるかわからないという恐怖とともに、歩いていた。
まるで足音が二つ聞こえるような気がする。先ほどチラリと見たくらい怪物なんかとは、戦いたくない。
「……なんでこんな目に……ただ、楽に死にたいだけなのに……」
ブレイカーの願いはそれだけ。それ以上は求めず、故に彼女は安楽死のためのお金を貯めていた。
死にたい。けど可能なら楽に死にたい。そんな二つの感情を彼女は背負っている。この戦いに参加したのは、特に深くは考えてなかった。
殺し合いなんて馬鹿げてる。でももし、叶うなら楽に死にたい。そんな思いで参加を選んだ。確かに、小さな期待があったことは嘘ではない。
しかしその期待は打ち壊された。楽に死ねるわけもなく、さらにいえば勝てる見込みもない。周りに敵しかいないように見えて、軍服のようなものをきた少女たちのように残ればいいのに、残らずに外に出てしまった。
ビクビクと。死にたいのに死にたくないと願いつつ歩いていた時だった。後ろから突然声をかけられる。
ビクンッ!と体が大きく跳ねるのを感じ、ガタガタ震えながら後ろを見る。そこにいたのは、医者のような格好をした少女だった。
「……ひっ!!」
ブレイカーは釘バットを構えるが、医者の格好をした少女は両手を上げて、こちらに一歩近づいてくる。何事かと思うが、次の瞬間彼女は口を開けた。
「私はヒーラーであります。よければ共に戦いませんか?」
——————
「……夢、ね」
ブレイカーは欠伸を噛み殺しながら目を開ける。ヒーラーと出会った時の記憶。それは、昨日のことのように思い出せる。
ヒーラーがブレイカーに目をつけた理由。それは今ならわかるが、おそらく一番ビクビクしていたからだ。つまり、舐められていた。
しかし、それでもいい。ブレイカーは短い間でも、支えてくれた仲間をその程度で嫌うほど屑になったつもりはない。
だから今はとにかくセイバーを探さないといけない。彼女のせいで、ヒーラーが死んだのは明白なのだから。
復讐劇か?それとも逆恨みか?違う。ただただ、気にくわないやつを倒したいだけ。子供っぽいというなら笑うがいいさ。と、ブレイカーは笑う。
とにかく行動をしなければ。ブレイカーはそう思い起き上がろうとしたが、その時右半身に違和感を感じた。
ゆっくり右を見ると、そこにはスヤスヤと心地好さそうに眠っているアーチャーがブレイカーを抱き枕のようにしている姿が目に入る。
「ちょっ、な、何やってんのよあなた意味わかんない離しなさいよ!!!」
その日、朝を告げたのはニワトリの鳴き声ではなく、顔を真っ赤に染めたブレイカーの叫び声であった。
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