3-9【どうせ殺すなら強いやつがいい】

 ☆ファイター


 目の前にいる敵は、こちらを見てにこにこと笑っている。その顔をやめろと叫んだとしても、きっと彼女は聞く耳を持たない。


 だからその顔をやめさせるために、彼女を殺すしかない。彼女だって、何人もの人間を殺してきたのだから、これは悪いことではないのだ。


「うーん。あまり話したくない感じなのかな?少しは落ち着こうよー!」

「うるさい!!おまぁはしなばならんやつだがや!!」


 死ななければならない人。それは目の前の敵だ。だからファイターは踏み込む足を強くして飛び出していく。


 彼女のスキル【精霊の手助け】は、自分の身体能力を跳ね上がらせることができる、単純だが強力なスキル。それを遠慮なんかせずに使ってみせた。


 地面を踏み込み、体をねじり柄の回し蹴り。それはキャスターの顔をまっすぐと狙い定めており、当たれば恐らくぱんっと頭が割れてしまうだろう。


「ひっ!?、フェ——!!」


 何かを呼ぼうとしたのかわからないが、キャスターは慌てて顔の横に腕でガードを作る。ゴギリと、音がしてキャスターの腕があらぬ方向に曲がり、吹き飛ばされていく。


「痛いっ!!」


 彼女が痛みで震えている。なんと面白いことだと、ファイターは考えた。目から大量の涙を流し、痛みに震えるその姿は滑稽としか言いようがない。


「痛い、痛いよぉ!やだ、痛いのはやだよ!パパとママ以外に、痛いのはされたくないよ!!」

「おまぁは死ぬべきやつだがや……だから、死ね」


 ファイターはそう言ってキャスターの首を握りしめて、上にゆっくりと持ち上げていく。キャスターが苦しそうな声を出すのを、ファイターはニヤニヤしながら聞いていた。


 そして、ファイターは片手を握りしめる。グッとその手を後ろに引き、今度は外さないようにキャスターの顔めがけて突き出そうとした。


「いや、死ぬのはお嬢さんのほうだよお?」


 パンッ


 乾いた音が後方から聞こえてきたと思うと、ファイターは自分の胸がとてつもなく熱くなっているのを感じた。


 熱さを感じると同時に走る痛みは、キャスターの首から手を離すには充分すぎた。キャスターが地面に落ちるのと同時に、彼女の頭に何かがコツンと当たる。


「それじゃあね、お嬢さん」


 今度は耳元で音が聞こえた。こんな体験できるのはもうないだろう。そうだ、モニターに聞かせてやろう。


 彼女は最後にそう思い、意識はだんだんと闇の中に落ちていったのだった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆キャスター


「うぅひっ……ぐっ……」


 痛い。折れた腕の激しい自己主張を聞いて、キャスターは目をさらに強くつむる。この主張を止める方法は、誰か知らないものか。


「大丈夫かい?お嬢ちゃん」


 目の前にいた女性が優しく声をかけてくる。誰かは知らないが助けてくれたのかと思い、キャスターはホッとしていた。


 確かこの人は、初日に出会った女の人。名前は確かガンナーといったか。彼女の名前を繰り返して、キャスターは泣きながら笑顔を向ける。


「助けてくれてありがとう、ガンナーお姉ちゃん。お礼にみぃちゃんの国民に——」

「おおっと、そのことだが、少し提案があるんだけどねぇ?」


 提案。その言葉をキャスターは口の中で三回ほど繰り返して、何かと尋ねた。ガンナーはフフッと笑い、そして口を開けたのだった。


「私と同盟を結んではくれないかい?」



 ◇◇◇◇◇


 ☆テラー


 騒ぎ声が聞こえてきた。サモナーはその音を頼りにテラーとともに現場に駆けつけた。そこには倒れている魔法少女が一人だけ残されていた。


 テラーとサモナーは顔を見合わせてそこにいくと、赤い水たまりの上に浮かぶ彼女は、一見するともう死んでるように見えた。


「……この人、生きてます」


 テラーがそう言い、サモナーは頷く。魔法少女はまだ息があるが、このままではいずれ死んでしまうだらう。


 そうだ。サモナーは一つ考えて筆を取り出して空中に【治】と書いていく。その様子を見たテラーは不思議そうに声をかけてきた。


「何をしてるんですか?」

「……これが私のスキルさね。死んだ魔法少女のスキルを使うことができる【スキル召喚】さね。条件として、数秒間体に触れておくことがあるけどさね」


 その言葉と同時に、サモナーの体に空中に書いた文字がぺたりと張り付く。すると、彼女の肩には、バッグが一つぶら下がっていた。


 そのバッグから彼女は何か取り出し、それを魔法少女の方に無理やり流し込む。何をしてるかまた尋ねようとした時、サモナーはテラーの手を引き走り出した。


「まぁ、アレだよ……どうせ殺すなら、強いやつがいい。そういうことさね」


 テラーはその言葉だけでなんとなく察してしまう。彼女はそういう人だ。一度殺し合いを経験し、その現象に虜になってしまっている。


 だから一緒にいる。退屈しないから。テラーはそう思って彼女とともに走り出したのだった。


 そして、今日がだんだんと終わりに近づいていく。

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