3-8【チャンスだと思ったんだけどね……】
☆ランサー
どこかの家のドアが風に激しくノックされていた。その家の中には、一人の少女が体操座りで床の上にいた。
目の前で揺れている縄の輪っかを見ながら、ランサーはため息をついた。その輪っかには、何度か握った跡がある。
「チャンスだと思ったんだけどねぇ……」
ランサーはこんなふざけたゲームから逃げ出せるなら、死ぬのもありかと考えていた。そんな彼女の目の前にあった首吊り用のロープ。
首を吊れば死ねる。しかし、彼女にその勇気は湧いてこなかった。死にたくないし、殺したくもない。どうすればいいのかわからなかった。
「家に帰りたいよぉ……」
彼女の言葉は誰にも届かない。ギィギィと、ロープが風に揺れているだけであり、その輪っかの奥には、暗い空が映っていた。
◇◇◇◇◇
☆アーチャー
路地裏に座り込んで、アーチャーは飴玉を食べていた。ポツンと置いてある机のようなものの上には、小さなタッパがなんこか置いてある。
「…………」
無言で両手を合わせてタッパの中にある食事に手を伸ばす。冷めてはいるが、それでも味の衰えを感じない。もしまたセイバーに会えたら、料理を作ってもらいたいくらいだ。
すぐに全てなくなってしまう。それにためていた飴玉ももうない。食事ができないというのは、アーチャーにとっては死活問題になりうる。早く食事をしなければならない。
路地裏から出た時、誰かの視線を感じた。弓を構えつつ、アーチャーはその視線の先を見る。
「…………」
そこには、ファイターがいた。月明かりを浴びながら、ゆらゆらと体を揺らしている。アーチャーはそれを見て、危険を感じ数歩後ろに下がる。
「おまぁも……ころじあうんが……?」
アーチャーはその言葉に対して、首を横に振ることで返事をする。しかし、ファイターはそれを見て「あぁ?」と怒鳴り声をあげて拳を構えた。
「だっだら、その弓ばおろざんがねぇ!!」
話し合いはできない。それを察したアーチャーはファイターに向かって弓を放つ。しかしそれをファイターは片手で弾き、そして走り出す。
接近戦なんてできるわけがない。アーチャーは足のバネを使い上に大きく飛ぶ。近くの民家の屋根の上に乗り、そこから弓を構える。
アーチャーのスキルのサーチアイはすでにレベルは7を超えている。ここまできたら、構えるだけである程度の距離まで弓は正確に飛んでいく。
その勢いで放った弓は、ファイターの右頬をかすめて、鮮血を飛ばす。しかし、ファイターは止まらない。歯ぎしりをしながら、上に高く飛んで拳を振り下ろした。
慌てて避けるアーチャー。先ほどまで自分が立っていたところがバラバラに崩壊していく様を見て、内心ゾッとする。
彼女はもうファイターではないのかもしれない。もはや、
サーチアイを発動し、安全そうなところを見つけ、そこに向かって走り出す。後ろからファイターが追いかけてくるが、アーチャーは逃げ切れる自信があった。
サーチアイでどこに誰がいるかなんとなくわかる。だから、これでいい。この先で、きっと私は助かるのだから。
◇◇◇◇◇
☆ファイター
もう何も残されてなかった。彼女にとって、村のPRより、モニターと動画を撮る方が何よりも、大事だったから。
しかしそのモニターはいない。だからもう何もない彼女は狂うしかなかった。行き場のない怒りは誰にぶつければいいかわからないから。
狂え、狂え、狂え。己にその言葉を叩きこむ。もはや、彼女にとって生きる意味は存在しなくて、ただ狂うことで己を保とうとしていた。
アーチャーを追いかけて、早々に殺さないといけない。そう思っていた時、目の前から声が聞こえてきた。
次の光に照らされて、一人の少女がくすくすと笑ってこちらを見ている。ファイターはその少女を見て顔を大きく歪ませた。
「おまぁ……」
ファイターの言葉を聞き、目の前の少女はマントの裾を掴んでぺこりと頭を下げる。そして、人懐っこい顔をして口を開けたのだった。
「こんばんは!ねね、お姉ちゃん!みぃちゃんの国民になって!」
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