3-6【ご飯、冷めちゃいますものね】

 ☆バーグラー


 皆が下を見ていた。届いたメールを見てブレイカーは膝から崩れ落ちて、怒りをぶつける相手を失ってしまったファイターは壁に背をつけていた。


 バーグラーはランサーの方を見ると、彼女は何度もメールの文章を読み返していた。何をしているか聞きたかったが、彼女からは何事も寄せ付けないと言うオーラが出ている。


 どうしようかと思った時、アーチャーが自分の肩をチョンっと突く。何の用か聞こうと思ったが、彼女の両手にあるナイフとフォークを見て察した。


「……そうですね。ご飯、冷めちゃいますものね」

「………………!!」


 バーグラーの言葉にアーチャーは目を輝かせて何度も何度も頷いた。こんな状況であるのに、彼女の食事優先なスタイルは、ある意味羨ましい。


 カチャカチャと金属がぶつかる音を聞きながら、バーグラーは考える。ランサーのことについて、だ。彼女はこの先生き残ることができるのだろうか?


 大切な仲間が二人死んで、一人目の前で死んでしまい、もう一人は自分たちのせいで殺してしまったようなもの。そんな事実を、心が弱いランサーは受け入れることができるのか。


 わからない。けれど、彼女のことを支えないといけないとバーグラーは考える。ふと気づくと、金属音が先ほどより多くなっていた。


 食事をしているのはアーチャーだけではなくなっていた。ブレイカーやサモナー。そしてセイバーなど、バーグラーとランサーとファイター以外、皆が食事を続けていた。


 はっきり言って食欲はない。しかし、食べないと倒れてしまう。そう考えたバーグラーはゆっくりと食事を始めたのだった。


 今からメインを食べよう。そう思った時だった。テーブルの中心に光の輪が突然出てきたかと思うと、初日に出会ったあの男が、そこに浮かんでいた。


「ハロー!ハロー!みなさん、再び会えた幸運に我々は感謝いたします。それでは、大事なお知らせです」



 ◇◇◇◇◇


 ☆サモナー


 初日に出会ったマスクを被った男性は両手を広げて視線を集める。それは全て敵意が込められてるものだったが、その敵意を受け入れるように彼はさらに大げさに両手を広げた。


「で、大事なお知らせってのはなんさね」

「よくぞ聞いてくれました。大事なお知らせというのは先ほどにあったメールの詳しい説明でございます」


 メールと言われて、サモナー達はメールの内容を再度確認する。よく見ると一番下の行に新しい地域がどうだとか書かれていた。


 このことについて質問を投げかけると、男性はくすくすと笑ってパチンと指を鳴らす。すると、空中に透明なパネルが浮かび上がってきた。


 そこにはどこかの地図が書いてあり、右上に【第一エリア 森】と書かれている。男性はそれを見ながら、口を開けた。


「見ての通りですが……今あなた達がいる場所はここ、森エリア。そして次に行くべきは……こちら、住宅街エリアとなっております」


 そう言って男性はまた指を鳴らす。すると画面が切り替わり今度は右上に【第二エリア 住宅街】と書かれていた。


「それはわかったが、どうやっていけば良いのだ?メールの通りなら、このままここにいたら死ぬのだろう?」

「セイバーさんいい質問ですね。えぇ、ですからあなたたちは今から移動してもらいます。なに、簡単です。まっすぐいけばいつのまにかエリアが変わってますよ」


 そう言って男性は画面を消した。ざわざわと騒ぎ出す面々を見て、男性はさぞ面白いと言うようにくすくすと笑い出す。


 そして何か質問かないかと尋ねてくる。誰も何も答えないため、男性は数回頷いた後ふわりと体を浮かばせる。


「ではご武運を」


 男性はその言葉を残して姿を消した。こうしてはいられない。サモナーががたんと立ち上がると同時に、他のメンバーも慌てて屋敷から出て行く。


 しかし、一人だけそこに座り込んでいた魔法少女がいた。ブレイカーだ。仲間が死んで傷心気味なのかもしれないが、このままでは死んでしまう。


 サモナーは無駄死にだれかが死んで欲しくはない。テラーに先に行くように促し、サモナーはブレイカーに近づく。


「逃げないとしぬさね」

「……わかってるわよ。今はまだ死ぬ気はないわ……」


 今はまだ。ブレイカーはその単語を口の中で何度も繰り返していた。サモナーは深いため息をついて、彼女を置いて走り出す。


「あら、速かったですねサモナーさん」

「……先に行けって言ったさね。なんでここに?」


 外を歩くとすぐに、テラーがこちらに声をかけてきた。サモナーは彼女を少しだけ並んでいたが、テラーはそんなこと気にしないと言うように、口に手を当てて笑い出す。


「ひ弱な補助職を一人にしないでほしいです。二人で行きましょ?旅は道連れってやつですよ」

「道連れにあいたくはないさね」

「じゃ、一人より二人。です」


 そう言って二人は歩き出した。どこまで歩けばゴールにつくのか、それはサモナーにもわからないことだった。

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