3-5【ルールを破った君が悪いんだよ】

 ☆ブレイカー


 スマホに届いたメールを何度も読み返す。何かの間違いだということはわかっていたのに、何度読んでも文章に変化はあらわれず、ただただ冷酷にこの戦いの勝者ヒーラー敗者モニターを書いていた。


 勝者は顔を青く染めて、違うという二文字を口の中で何度も繰り返していた。そんなこと、ブレイカー自身もよくわかっている。だが、言葉が出てこない。


 モニターの前に座り込んで居た、ファイターだが、突然キッとヒーラーを睨みつけて大股で彼女の前まで歩いていく。そして、ヒーラーの肩に手を置いて深い恨みがこもった声を出した。


「おまぁが、モニターを……!!」

「違う!わ、私は知らないであります!!」

「じゃばぁ、ごのメールばなんどぅせつめいずるんたがや!」

「知らない!本当に私じゃないであります……!」


 ヒーラーはそう言って膝から崩れ落ちて、咽び泣きはじめる。小さい音が、この部屋いっぱいに広がっていき、皆がざわざわと騒ぎ出した。


 本当にやってないのではないかという疑念は、だんだんと確信に変わっていく。そもそも、このゲームは疑問点ばかりで、これを信じる人の方が少ないだろう。


 しかし、モニターを殺されたことでまともな判断ができなくなって来たファイターはヒーラーの首根っこを握り締めたのちに、地面に叩きつける。


 ヒーラーは苦しそうな声を上げて、ヒューヒューと過呼吸を繰り返していた。そんなヒーラーを見た、ファイターは彼女の頭を潰そうと足を頭の上に置く。


 ブレイカーはここでようやく止めようと立ち上がる。このまま見てたらダメだということは、誰の目にも明らかである。


 そんなブレイカーの肩が誰かに叩かれる。誰が叩いたか確認しようと振り向くと、そこにはとても冷たい顔をしていたセイバーがいた。


 ヒーラーの頭の上に足を置き続けていたファイターの前にセイバーは立ち、彼女をぽんっと優しく押す。それを見たヒーラーは助けを求めるような声を出した。


「……ルールは覚えているかい?」


 セイバーはそれだけの言葉を返した。そして、その言葉を理解するよりも早くヒーラーに激痛が走る。痛みを感じた片腕の方に手を当てて何が起こったかを理解した。そして、その理解により生じる痛みをかき消すほどの大声で泣き叫び始めた。


「あぁああぁあぁあぁあぁあぁあ!!!」

「…………ルールを破った君が悪いんだよ」


 かちゃりと剣の音が聞こえたかと思うと、ヒーラーの首元にはセイバーの剣が近づいていた。そのことに気づいたヒーラーはもう存在しない腕を抑えつつ、その場から去っていく。


 ブレイカーは呼び止めようと走り出すが、そんな彼女にセイバーの声が飛んでいく。ピクリと体を止めてしまったブレイカーは、どこかに走っていくヒーラーを遠くから見つめることしかできなかった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆ヒーラー


 何度も口の中で繰り返す。私は違うと。もうその声は誰も聞いてくれないのに、彼女は助けを求めるように森の中を彷徨い続ける。


 ブレイカーはなぜ助けに来ないのか。そのことを考え始めたら、痛みより先に怒りが湧いてくる。こんなことならブレイカーと組まなければよかった。


 なくなった方の肩からどくどくと血が流れ続ける。震える手で治療薬を取り出したヒーラーはその一本全てを飲み干した。


 みるみるうちに引いていく腕の痛みと血の流れ。少しだけ落ち着いた彼女はとにかく帰ろうと思い立ち上がった。


 ブレイカーはもうどうでもいい。そもそも彼女は嫌いだ。死にたいという願いで戦っているのは、生きたいと願っているヒーラーとは正反対だから。


 そうだ。生きなければならない。あんな薬漬けの毎日の生活から抜け出すために、今ここにいるのだろう?


 だから早く他の同盟相手を探さないと。ガンナーあたりならどうにかなるか。そう考えていた時、彼女の目の前に影が現れた。


 人影とかじゃなく、正真正銘の影がそこにあった。その影はゆらりと揺らめいて、こちらに近づいてくる。


「ヒイッ……!!」


 それは怪物だった。それも一体や二体じゃない何十体もいる。ヒーラーは逃げようとするが、それより先に治り始めていた片腕を怪物に掴まれた。


「いや!やめ、はな……!!」


 ヒーラーの体に怪物が集まってくる。そして一体がヒーラーの肩を噛みちぎった。鮮血が飛び散り、ヒーラーは声にならない叫びを挙げる。


 しかし、治療薬のお陰か彼女の肩は異常な速さで再生していく。それを見た怪物たちは面白いおもちゃを見つけたと言いたげな反応をして、ヒーラーに襲いかかった。


 腕がちぎられる。


「ひぎぃ!?」


 足が噛みちぎられる。


「ぎぃ……っ!」


 両目をくり抜かれる。


「あ、がっ……」


 胴を貫かれる。


「たすけっ……ブレイ……」


 そんな行為を繰り返していくうちに、ヒーラーの体は再生を止めてしまい、痛みが永遠と続いていく。しかし、怪物たちはヒーラーから離れようとしなかった。


 何時間経ったか、何分経ったかそんなことはわからない。ただ、だんだんと怪物が飽きたというようにそこから離れていった。


 そして先ほどまでヒーラーがいたところに風が吹いた時、ただボロボロの布が空に舞うだけであった。



 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【ヒーラーが怪物に襲われました。】

【結果、ヒーラーは死にました。よって他の参加者に1ポイントずつ贈呈します。只今のトップはキャスター。彼女の合計は 3 ポイントです】

【残りの魔法少女は 10名です。頑張ってください】

【魔法少女の数が一定数減りました。よって新しい地域に移ってもらいます】

【今の地域に居続けた場合かなり苦しい死に方をするのでお気をつけください】

【では、新しい地域でも頑張ってください】

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