3-3【ヨーツーバーたるものいついかなる時も動画を撮るべし!】

 ☆アーチャー


 食事は楽しい。アーチャーはそう思いながら、朝の食事を詰めたタッパを前にしてにこにことした顔を浮かべていた。セイバーが作る料理は、飴玉より美味しい。


 どんな極限状態であろうと、食事さえあれば生きていける。アーチャーはそう確信していた。だから、今この状況はある意味半分ほど願いが叶っている。


 アーチャーは捨てられた子供だった。いつ産まれたのか、いつ捨てられたのかわからない。自分の名前さえも。


 捨てられたのは5歳くらいの時だと思う。その時はまだ親がまた来ると信じていた。


 6歳にして、それは叶わない夢だと知る。親に捨てられたことがわかった彼女は生きるためにゴミを漁って食事を取り始めた。


 7歳にして、彼女は盗みを働いた。その時食べる事ができた腐ってない弁当やパンは彼女にとって至高の料理であった。


 8歳にして、彼女はお金の大切さを知った。子供だとお金は稼ぐことはできないものだと思っていたが、そんなことはなかった。


 9歳にして、彼女の体は男の味と女の味を覚えていた。別に悪いとは思ってなくて、これも一種の仕事みたいなものだと彼女は思っていた。


 10歳にして、彼女は倒れた。身体中が熱く燃えているかのような感覚に襲われてしまい、いうことを聞かない。あぁ、このまま死ぬのかと路地裏で彼女は考えていた。


 そんな彼女の足元にはスマホが一つ、落ちていた。誰のものかわからない。けれどそのスマホに来たメールを見て、彼女は残る力を全て使い、タップした。


 そして今に至る。だから彼女は生き残り願いを叶えないと行けない。そうしないと、死んでしまうのだから。


 食事はできた。あとは生きるだけだ。アーチャーはそう考えて大きく伸びをする。計画はうまくいってるのだから、焦る必要はない。


 アーチャーは昼色が楽しみだからと考えて、ゴロンとベッドの上に転がってその時まで待とうとしたのだった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆ファイター


「づまり、こじゃぁその……ドウガハイシン?をずる準備ってことぁが?」

「ええ。ヨーツーバーたるものいついかなる時も動画を撮るべし!なのですよ」


 そう言ってモニターは胸を張るが、ファイターにはわかる。彼女はただ強がっているだけなのだ。


 年端もいかない少女が、経験していいことではないことがここでは起こっている。しかし、それを止める術はファイターも誰も持ち合わせていない。


 とにかく、今一番殺しているキャスター。そして、最初に殺すと宣言したガンナーにさえ気を付けていれば、死ぬことはないだろう。


 チラリとモニターを見ると、彼女はいそいそと動画配信なるものの準備をしていた、ああいうことをするのは、素直に羨ましいと思ってしまう。


 やりたいことがやれる。それは簡単に見えてとてつもなく難しいことで、ファイターにそれはできなかった。


 だから今ここにいる。やりたいことを否定され続けた彼女は、無理やりにでも願いを叶えようとしている。


 彼女の家は田舎だった。なにもない、小さな村。だけども、ファイターは幸せに暮らしていた。


 友達とも遊び、家族とも話し、知らない人を案内する。そんな生活をしていたが、それはもう終わってしまった。


 彼女の村は、ダムの建設予定地になってしまったのだ。当然住民は反対……は、しなかった。


 なにをつかまされたかわからないが、皆が皆ダムを受け入れていた。けれど、ファイターは受け入れたくないことであり、一人で反対し続けた。


 その声は誰にも届かない。けれど、彼女は今チャンスをつかんでいる。それに生き残ればモニターに会える。そしたら、ネットから訴えてみよう。


 そんなことを考えて、ファイターはモニターの頭を数回撫でた。モニターは顔を赤らめてはいたが、その行為を止めようとはしなかった。


 そんな時、ノックの音が聞こえた後扉が勢いよく開く。そこにいたセイバーが、二人を見た後、満足そうに頷いて口を開けた。


「食事の用意ができたぞっ!!」

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