1-5【今、殺すべきだったかもなぁ?】

 ☆ガンナー


 黒いスーツを着ていた女性が草木を掻き分けながら進んでいく。片手に銃を構えて、辺りをキョロキョロと見渡していた。


 彼女の名前はガンナーといった。その名の通り銃を操ることに関しては右に出るものはいない。と。勝手に思い込んでいる。


 そう思わないと、おそらくこの戦いで生き残るのは難しい。けれど、彼女には大きな自信があった。


 理由は簡単だ。まず一つ。銃を扱えると言うことだ。遠距離攻撃ができると言うのは、かなり効果的であり、しかもこの森の中。的さえ見つかればいつでも満点を狙える。


 更に。これが一番大きいところだが……彼女は他の参加者と決定的に違うところがある。それはただ一つ。彼女は殺しを仕事としているのだ。


 殺すために生き、生きるために殺す。そんな生活を続けていた彼女にとっては、この殺し合いの場というのはもはや仕事の延長線上にあるものだ。


 まぁ。参加した理由は何かのキャンペーンかと思って飛びついたからだが。あんな啖呵を切ったくせして、別段願いはない。強いて言うなら割引き商品を必ず買えるようにしてほしい。と言うくらいか。


 ……と、思っている。しかし彼女に願いはある。しかしそれを叶えるとガンナーは自身が嫌ういい子になってしまうのだ。ゆえに、今は願いがないと言い聞かせる。


「……まぁ、なんにせよ。死ぬつもりはないけどねぇ?だから今するべきは……」


 そういって彼女はスマホに入っているメモ帳を起動する。そこにはずらりと今回参加している魔法少女の名前が書いてあり、補助職の名前を見る。


 今回の戦いは、おそらくこの補助職の面々と早く同盟を組めるかが、勝負のカギになる。こんな世界の中で、裏切らない仲間がいるってのはそれだけで支えになる。


 そして補助職も、戦闘職の面々を探している。お互い利害が一致するのだから、同盟を組むのはスムーズにいくはずだ。


(……ガードナーはおそらく穏健派の誰かと組んでるだろ?テラーとキャスターは全く能力がわからないから博打が過ぎる……狙い目は、ヒーラーかモニターかね?)


 そう思考していた時、ふと何かの気配を感じる。コソコソと木々に隠れながらその気配の先に歩いていく。


「んなぁ……!?」


 ガンナーは驚愕の声をあげる。そこにいたのは、無数に蠢いている謎の影。それは、この世の生き物とは思えないほどの禍々しい気配を纏っていた。


 もしかして、これがルールに書いてあった化け物なのだろうか。だとしたら、あんなのと戦うのは遠慮したい。


「こんばんは、お姉ちゃん!」


 突然後ろから声が聞こえる。ガンナーはゆっくりと振り向くと、そこにはコウモリのマントを羽織った少女がいた。確か、あの時質問していた一人だっけか。


「こんばんは、お嬢ちゃん?名前はなんて言うんだい?」

「みぃちゃん?みぃちゃんはみぃちゃんなんだ!」

「はっは。違う、違う。役職だよ?私はガンナー。お嬢ちゃんは?」

「えっと……うん!キャスターだよ!よろしく、ガンナーお姉ちゃん!」


 キャスター。その言葉を聞いた時、ピクリとガンナーの眉が動く。キャスターは補助職の一つであり、ガンナーが探していた人物でもある。


 ある意味ラッキーであり、ある意味アンラッキーだ。一人で動いてる辺り、彼女はまだ誰とも組んでいない。だからある意味組むなら今だ。だが、彼女の能力はわからない。それなのに組むのは果たして得策なのだろうか?


「あ、そうだ!ガンナーお姉ちゃん!お腹空いてない?ご飯あげるー!」


 そう言ってキャスターはポケットの中から、小さな飴玉のようなものを取り出して、ガンナーに渡す。ガンナーはそれをじっと見つめていた。


「……一応聞くけど毒は入ってないよねぇ?毒飴食べて死ぬってのはあまりにもお粗末すぎるからなぁ?」

「んもー!ひどいよガンナーお姉ちゃん!じゃあ……こうしようか?」


 そう言ってキャスターは自分の口に飴を放り込む。何回か咀嚼してるのを見て、なるほどこれは毒はないかとガンナーは悟る。


 じゃあもらおうかと言おうとした瞬間、ガンナーの唇に何か柔らかいものがくっつく。それが、キャスターの唇に気付くのに時間はかからなかった。


 慌てて引き離そうとするが、ガンナーの口の中にキャスターの下と何かがコロンと入り込んでくる。


 口の中に広がる飴と、キャスターの味。唇が離れる時、ガンナーは少しだけ物足りないと思っている自分がいるのに気づき内心驚く。


「ヘヘッ!これなら安全でしょ?」

「……そうだねぇ。ところで、これはどこで手に入れたんだい?」


 意識を変えるために、ガンナーはそう言う。するとキャスターは、森の中を歩いている怪物を指差す。


「あの子達を3人くらい倒したら、一個もらえるんだ!へへーみぃちゃんすごいでしょー?」

「……なるほどね?……でもいいのかい?そんな貴重なものを私に渡したりして」

「大丈夫ー!みぃちゃんいっぱい持ってるから!それじゃ、みぃちゃん行くね!」


 そう言ってキャスターはどこかに走り去っていく。ガンナーは、キャスターの言葉を頭の中で繰り返して、大きなため息をつく。そして、呟いた。


「キャスター……あの子はイレギュラーなんだろうねぇ?……怪物を倒す補助職。今、殺すべきだったかもなぁ?」


 そう言ってガンナーは怪物が歩いていく方向を見る。そして心の中で「あーらら」と呟く。


 彼女も怪物の視線の先には、最初にいたロビーのようなところが見えた。

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