1-3【今更いい子ぶってんじゃねぇよ】

 ☆フェンサー


「なんと!誰も死なない方法があるのだ!」


 声高々に宣言したその言葉。ほかの13人の魔法少女にはもちろん聞こえており、皆がざわざわと騒ぎ始める。


「で?それは具体的にどんな方法っていうんだい?」


 そのうちの一人。赤い髪をポニーテールにしている槍を持った少女が質問を投げかけてくる。フェンサーはにやけそうになる顔をなんとか抑えつつ、口を開けた。


「このルールをよく見て欲しいのだ。一週間後、1番人を殺した人の願いを叶えるとか、ポイントとか……どこにも、殺さないといけないとか書いてないのだ!」


 フェンサーの言葉を聞いて、騒ぎ声が歓声に変わっていく。それもそうだ。殺しあえと言われて、素直に殺しあうような人なんているはずがない。


 だから、このまま殺し合いが終わり、平和的に終わる。


「おいおい、何甘いこと言ってんだい?」



 ◇◇◇◇◇



 ☆ランサー


 フェンサーの宣言。それを聞いた槍を持つ少女、ランサーはここらの中で喜びがせり上がっていくことを感じていた。


 彼女にも叶えたい願いはある。が、それは簡単な願い。人を殺してでも叶えたいかと言われたら、それの答えはノーだ。そんなことできるはずがない。


 だから、これで平和に終わると思っていた。


 なのに。


「おいおい、何甘いこと言ってんだい?」


 突然そんな声が聞こえてきた。その声を出した主は黒いスーツに身を包んでおり、顔の右側には火傷跡のようなものがあった。


 その女性はニヤニヤと笑いながら、フェンサーの前に近づいていく。そして、腰に手を当てて口を開けた。


「お嬢ちゃんさぁ、バカじゃない?いやバカだねぇ?ここにいるやつらは、人を殺してでも叶えたい願いがあるんだよぉ?」

「そ、そんなこと人の道に反しているのだ!」

「あぁ?何言ってんだお嬢ちゃん?」


 そう言って女性は突然取り出した銃口をフェンサーの額につけた。少し離れているランサーのところまで火薬の匂いと緊張が伝わってくる。


「お嬢ちゃんだって一瞬でも人を殺してでも叶えたいって思ったからここにいるんだよねぇ?ここにいるやつらは、強制的に連れてこられたわけじゃない。自分の意思で、ここに参加してる……それなのに今更いい子ぶってんじゃねぇよ」


 そう言って女性は天井に向けて弾丸を放つ。それは天井を突き破り、どこかに飛んでいく。その銃声を至近距離で聞いたフェンサーは尻餅をついて倒れてしまった。


「これが私の答えだよぉ?それじゃ、私は願いを叶えにいくかなぁ?」


 女性は手を振りながら、ロビーから出て行く。しかしランサーはまだ少し楽観的に考えていた。外に出ていくのは彼女だけだろうと。


 だが、その考えは甘かった。


 女性が出て行ったのに続くように何人もの魔法少女たちがロビーから出て行った。ランサーは呼び止めようとしたが、声は出なかった。


 そしてロビーに残されたのはランサーを合わせて4人。フェンサーに、狐耳の少女。そして大きな盾を背負った小柄な少女。


 ランサーはしばらく迷ったあと、フェンサーの方に近づき手を伸ばす。放心していた彼女はハッと意識を取り戻し、ランサーの手を握る。


「なんだいなんだい!あれくらいでへこたれてるんじゃないよ!ほら、笑った笑った!」

「……そうなのだ!平和主義者がここに4人もいるのだ!気にしてちゃダメなのだ!」


 そう言ってフェンサーは立ち上がる。先ほどより暗い顔だが、元気を多少は取り戻したようで、ランサーはホッとする。


「それじゃ、少し自己紹介と洒落込もうじゃないか!あたいの名前はーーーー」



 ◇◇◇◇◇


 ☆バーグラー


 バーグラーは自己紹介をしながら、ほかの3人の顔を見る。


 軍服を着たフェンサー。おそらく穏健派であり、よほどのことがない限りは殺し合いに本格参加はしなさそうだ。


 ランサーはニコニコと笑いながらフェンサーと話をしていた。彼女も穏健派。ある意味性質がフェンサーと似ているため、仲良くなるのに時間はかかってなかった。


 そして最後に大盾を背負った少女を見る。視線に気づいたのか、彼女はびくりと体を震わせて涙目でこちらを見てきた。


 名前はガードナー。けれど彼女は穏健派と言うよりは、外に出る勇気もなくてここのメンバーに入ってしまったと言う方が正しいだろう。


「よ、よろしく……」

「……よろしくお願いします」


 ガードナーに声をかけられたから、バーグラーは言葉を返す。さて、ここからどうなることやら。と、彼女は思い始めた。


 ガードナーと自分は少し似ているな。そう考えながら、バーグラーはロビーの外の方に視線を向けたのだった。

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