第2話 恋愛センサー(笑)

「え、どういう事?恋愛相談は七瀬君がしているんじゃないの?」


 「正確には光が恋愛事の相談を聞く役で俺がそれを解決する役だ」


 サラッと予想外の事実を述べる恋路。

 その事実を聞かされた夏恋は、


 「えー、よりにもよって恋愛を解決するのが叶君・・・?」


 「よりにもよって、ってお前、俺とそんな絡みないだろ?」


 何処かで会ったっけ?と恋路が聞いてくるが、


 「絡みなくても知ってるよ。叶君は有名だし・・・」


 

叶恋路かなえれんじ】は有名だ。・・・・【七瀬光】とは真逆の意味で。


 【叶恋路】。170センチほどの身長に黒髪の何処にでもいそうなタイプの人間。

 ルックスはそこそこ整ってはいるが、切れ長の目のせいで初対面で好感情を持たれることは少ない。

 

 だが今の説明の中には、そんな叶恋路という男が有名になれる要素は微塵もない。


 この男が有名になった理由はーーー



 『おい、叶!眠るな!起きろ!』


 『ZZZ・・・』


 『おい、七瀬。叶を起こせ』


 『ははは・・恋路、先生がご立腹だよ』


 『んあ?・・・んだよ、まだ終わってねーじゃん。ひかるー、休み時間に起こせー』

 

 『ははは・・・』


 『叶ェェッッ!!』


 とか


 『おいおい、叶。昼飯食い過ぎだろ!?運動部の奴ら以上に食ってねぇか!?』


 『七瀬と比べてみろよ!?3倍以上差があるだろ!?』


 『まあ、恋路は食べるからね・・・』


 『んぐんぐ・・・』



  等と、授業はサボる、大食漢、だがその割に痩せているのでどれだけ食べても太らない体質。

 

 他、etc・・・何重もの意味で女子からあまりいい感情を持たれていないが、男子内では何故か好感を持たれている(変な意味ではない)ので学年内で有名。


 そんな理由で女子とはあまり関わりが無さそうな恋路が夏恋に相談事の解決をしていると言っても信じてもらえないのも当然のことだ。



 「まあ、恋路は日頃の行いがあまり好印象をいだかれないからね」

 

 「まあ、別に抱かれようとも思わないけどな」


 「七瀬君。叶君が相談事を解決しているって本当の事なの?」


 「うん、まあ信じてもらうのも難しいと思うけどね」


 「んだよ、疑ってるのか?俺が恋愛相談を解決していることが」


 「多分、噂通りの叶君の振る舞いからでは誰も信じないと思うけど・・・自覚ないの?」


 「ははっ、倉木さん。意外と刺してくるね」


 光が笑いながらそう言ってくるが夏恋は1つの疑問が浮かぶ。


 「あれ、私、七瀬君に自己紹介したっけ?」


 自分から名乗った記憶は無いけど・・・

 と思っていたが、光の口から2つ目の予想外の事実・・・いや、夏恋としては今日一の予想外の事実が語られた。


 「えっ、だって倉木さん、今月新聞部が発行していた学校新聞に【新聞部が選ぶ学園美少女TOP5】にランクインしてたし、有名だよ?」


 「えっ?」


 イマナンテ?


 「ああ、正門掲示版にどデカく貼ってたヤツか。メッチャ人だかり出来てたから俺は見に行かなかったけど」


 「・・・それって何時いつのこと?」


 「ここ1週間のことだけど・・・えっ、倉木さん知らなかったの?」


 「うん・・・初耳なんだけど・・・」


 「おいおい、それはおかしいだろ。あんだけ人だかりができていたからコイツのクラスの奴が見に来て、クラスの中で話題にしたりしてる筈だろ?コイツがぼっちとかでない限り」

 

 確かに、と夏恋は思った。

 じゃあ何故、夏恋の耳にこの話が1つも入らなかったのかを考えると・・・


 夏恋に新聞部の知り合いはいない。だが、新聞部の発表を事前に聞き、クラスメイトに情報の統制を図れば夏恋の耳にこの事が入らなくすることが可能だ。


 それが出来る人物はーー


 「ユキちゃん・・・!」


 「知り合いにいんのかよ。ウケるな」


 「まあ、サプライズみたいな物かな・・?」


 1人は笑い、1人は慰め、1人は親友に嵌められるという奇妙な図ができる。


 ◇ ◇ ◇


 自己紹介やら予想外の事実が告げられた後ーー


 「で、お前の相談って?」


 さっきまで七瀬が座っていた椅子をぶん取り、頬づえをつきながら恋路が夏恋の相談事を聞こうとするがーー


 「本当に大丈夫?叶君に相談して・・?」


 当の夏恋はまだ信じきれない様子で恋路の事を胡散臭い物を見るような目で見てくる。

 

 「んだよ、まだ信じてねーのかよ?」


 「まあ、無理もないけどね」


 恋路と光。どちらに恋愛相談したい?と100人に質問したならほとんどの人間が光を指名するだろう。


 それも恋路は理解しているのか、はあー、と溜め息をついて


 「じゃあ、お前の相談事の大まかな内容当ててやるよ」


 「えー、私の相談って厳密には恋愛とはちょっと違った話だし・・・」


 無理だよ、と夏恋がそう言おうとしたが


  

 「、か?」


 「えっ・・・」

  

 夏恋は一瞬、相談事の内容を当てられて言葉を失ったが、そんな事は有り得ない、と思って


 「えー、私と七瀬君の話聞いてたでしょ?」


 さっきまでベッドにいたから夏恋と光の相談が聴こえていたからそう言ったんだろう。

 そう笑いながら言うがーー


 「聴いてねーよ」


 「恐らくだけど聴いていないと思うよ」


 光までそんな事を言う。

 

 「でも、普通、恋愛相談ってなったら誰々が好きになったとか、彼氏彼女と上手くいかないとかそういう相談でしょ?

 何のヒントも無くピンポイントで相談内容を当てるのは・・・」


 不可能に近い。

 だが、そんな夏恋の疑問を恋路は


 「分かるんだよ」


 「え?」


 次は恋路の口から今日3つ目の予想外の事が伝えられる。



 「俺は他人の恋愛感情やそれに準ずる事柄を視覚を通して認識できるんだよ」

 

 だがーー



 「えー、それは無いよー」


 「は?」


 「いや、は?じゃないでしょ。いきなりそんなSFチックな事言われても信じる人いないよー」


 先程はもしかしたら・・・と急に閉まった扉に驚いていたが、夏恋は超能力や心霊現象の類を信じないタイプの人間で急にそんな事言われても信じないのが当たり前だ。


 「いや、お前の相談事当てただろ!?」


 「それは凄いと思うけど・・・いきなり感情を視覚を通して認識できるとか・・・男子がよく言ってるアレでしょ、アレ、えーと、中二病?だっけ?」


 「ハァ!?」


 「ふっ・・・アッハッハ!」


 中二病扱いされる恋路とナチュラルに毒を吐く夏恋がツボに入り、堪え切れないといった様子で笑う光。


 「言ったな、お前・・・!じゃあ見せてやるよ俺がスパっと相談を解決する様を!

 おい光!他に相談に来たヤツは!?」


 そう言って今なお笑っている光に相談者の有無を尋ねるがーー


 「ハッハッハ・・・!えっ、相談者・・・もういないよ」


 「は?」


 「いや、お前が前の相談者は俺に任せるって言って適当にあしらっただろ?それからは倉木さんしか来てないよ」


 「あー、そうだった。どいつもこいつもお前目当てだったから全部捨てたんだった!」

 

 「お前は後から相談者を遠目から見ただけで顔合わせすらいないけどな」


 「全員お前目当てで誰一人、ガチの恋愛相談しに来ないからなー。あ、でも1人だけいたか」

 

 「なんだ、ほとんど解決した事無いんだ」

     

 「まあ、が無くなってから日も浅いし、いきなり大勢が相談に来るのもおかしい話だけどね」


 とにかく、と夏恋は一旦話を切り、


 「私は少なくとも叶君が目の前で恋愛相談を解決しないとその【恋愛センサー】?は信じられないな」


 「おい、俺の特異体質に変な名前をつけるな」


 夏恋の相談事から恋路の【恋愛センサー】?なる物の存在の有無の証明の話になっているがそこはともかくとして


 「ま、そんな簡単にこんな所に相談者が1日に2人も来ないと思うけどね」


 光が至極もっともな事を言う。


 「それもそうだな。どうしようか・・・」


 恋路がどうやってこの不名誉な中二病扱いを止めさせるか考えていたが、


 「喉渇いた」


 元々寝起きな上、夏恋に対するツッコミの諸々で元々渇いた喉が更に渇いたので飲み物が欲しくなった恋路は、夏恋と光にある勝負を持ちかける。


 「おい、光、倉木、ジャンケンだ」


 「え?」


 「ああ、別に良いけど?」


 夏恋が何でいきなりジャンケン?と思っていたら


 「此処から本校舎までは20分近く掛かる。だけど最寄りの自販機までは何と10分で行ける。でもそれでも面倒なので代表者一名をジャンケンで決め、飲み物買ってくるというルールにしてある」

 

 恋路が詳しく説明してくれる。


 「あー、そういうこと」


 でもそれなら最初から此処に来るときに買ってこればいいのに・・・と思ったが


 「最初は俺達も買ってから持っていってたんだけどね。たまたま買うのを忘れた日があってそれから敢えて買わないで行って後からジャンケンで買いに行くって事になったんだよ」


 光がかゆいところに手が届くような補足の説明をする。


 「あ、そうなんだ」


 「お互い、非効率というのは分かってはいるんだけどね・・・」


 それがルーティンになっちゃって・・・と光が言う。


 「おい、早くやるぞ」


 恋路が催促するが、光が思い出したように


 「そういえば恋路、お前が今日は奢ってくれるんだろ?」


 「あ、そういえばさっき『俺が奢るから・・・』みたいな事言ってたね」


 そう2人から追及されて恋路はうっ、と怯むが、


 「・・・いいぜ、もしお前らが勝ったら奢ってやるよ」


 「やったー、御馳走様です」


 「ありがとう恋路」


 「ちょっと待てや」

 

 恋路が待ったを掛ける。


 「何でもう勝ちました、的な感じなんだよ?」


 恋路が勝利を確信している2人にそう言うと



 「だって私、ジャンケンで負けたこと無いから」


 「お前、俺に5日間負け越してるけど」



 「・・・・言ったなお前ら。表出ろ」

 

 ・・・実際は教室の中でやるのだが。

 

  全国共通。お互い拳を振りかぶる。


 「「「最初はグー!!!」」」


 ーー何故、恋路が奢ると言ったのか、それには恋路にも勝つという確信があったからだ。

 その勝利の確信の源はーー


 (まず光、この一週間、最初は必ずチョキかパーしか出していない!しかもあいこの時は高確率で出した手の1つ前の手を出す!)


 なんと恋路はこの一週間、負けない為に相手の出す手のパターンや癖を研究して来たのだった。

 恋路の今までの戦績は光に3勝21敗。確率にしてなんと70%以上負け越しているという実に驚異的なジャンケンの弱さだ。


 何としてでも勝ちたいと思った恋路はこの時の為に研究を重ねてきた。


 だが、ここで1つのイレギュラーが入る。


 (倉木の手は一体・・・!?) 


 今まで恋路が研究して来たのは光ののみ。夏恋の事は全くの未知数。 

 しかも夏恋本人はジャンケンで無敗と言う。

 だがーー


 (最初のジャンケンで一番勝率が高いのはパーになる!)


 何せ夏恋についての情報が全く無いのでセオリーに乗っとり恋路は夏恋の手をパーと断定する。


 (これで一番勝率の高いのはチョキになる!)


 これで負ける確率はほぼ無くなった。


 これで恋路1人がチョキを出し、夏恋と光がパー、もしくは夏恋がパーで光がチョキになる可能性が高い。

 

 「「「ジャンケン!!!」」」


 (ハッ、悪いな2人共、この勝負もらった!!)


 「「「ポン!!!」」」





 ◇ ◇ ◇



 「「御馳走でーす!!」」

 


 「クッソッッーーー!!」


 流れ的に薄々気付いていただろうが、

敗者はーー


 「じゃあ、私はオレンジで叶君」


 「俺はコーラかな、恋路」


 自分のカバンから長財布を取り出し、皆のリクエストを受け付ける叶恋路。

 

 「やっぱり、負ける人は負けるんだね・・・」


 「ここまでジャンケンが弱いとむしろ才能だよ」

 

 「お前ら見とけよ次は絶対に・・・」


 「「はいはい」」


 「クソッ!」


 そう吐き捨てながら恋路が教室から出ようとして戸を開き、前をみずに教室から出ようとするとーー


 「「痛ッ!」」


 「「え?」」


 恋路とは違う声が聞こえたので夏恋と光が恋路がいる教室の戸に視線を向けると、

そこにはーー



 「悪い・・」


 「いえ・・こちらこそ」


 と痛そうに目を抑えて大の字に倒れている恋路とこちらも痛そうに頭を抱えて座り込んでいる女子がいた。


 


 

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