第8話 天国へ戻る時間
僕と綾音は、一週間前の文化祭の帰りのように、並んで手を繋いで歩いた。
「お母さん今、独りぼっちなんだよね。」
「彩は、元気か?」
「うん。毎朝ラジオ体操してるから結構元気だよ。」
まだ彩が元気だった頃も、よくこうやって散歩した。
「死んだのに元気とか、ちょっと怖いね。」
「確かに。なんか変だな。」
僕は彩と一緒に散歩をした時を思い出す。
近所のおばちゃん、美味しいと評判のパン屋さん、小さな最寄り駅。
今は彩じゃなく、綾音と同じ散歩道を歩く。
「よし、じゃあ駅に着いたし、帰るか。」
僕は綾音との生活を思い出す。
「あっという間だったね。」
綾音が小さく呟いた。
「確か、明日の昼の十二時には、天国に戻らなきゃいけないんだよね。」
明日は特に何もないので、綾音を見送ることが出来る。
「分かった。」
綾音はにっこり笑った。
「楽しかったね、勇気くん。」
現在の時刻は昼の十一時五十分。あと十分で綾音はここから天国に戻らなければならない。
「あと、十分だね。」
「ああ。」
「私が来たとき、勇気くんすごい驚いてたよね。」
「そりゃあだって、綾音が急に出て来たからだろ。」
「一番最初の日曜日は、一緒に遊園地に行ったよね。」
「ああ。絶叫系の乗り物三連続はきつかった。。」
「その次の日曜日は、お母さんと出会った時の話してくれたよね。」
「ああ。確か僕の通ってた中学校の文化祭に行ったな。」
「うん。そこでお母さんのお父さんに会ったよね。私のこと見えてたの、びっくりしたよ。」
「僕だって、綾音が急に席を外したから、心配したんだよ。」
「この前の日曜日は、勇気くんのお母さんも私のこと見えててびっくりしたなあ。」
「それより僕は、綾音が自分の子供だったことがびっくりしたよ。」
「一緒に手繋いで、散歩したね。」
「ああ。」
「あと少しで、お別れだね。」
「……ああ。」
沈黙が訪れる。
「……勇気くん。」
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