第4話 おじさん

「うわ!人すごーい!」

 綾音が僕の手を引っ張って、廊下を走り出す。

「おい、ちょっと待った、走ると危ないよ……。」

 綾音は僕を見てにっこり笑った。

「大丈夫、大丈夫!誰かにぶつかっても私妖精だから!」

 言いながら前から来たおじさんに思いきりぶつかった。

「あれ?」

 ぶつかったおじさんは……。

 彩の父親だった。

「勇気くん……じゃないか?」

 綾音は僕の方を向いて首を傾げた。

「お、お久しぶりです。」

 僕は綾音を無視しておじさんに軽く頭を下げる。

「ねえねえ、勇気くん。このおじさん知り合い?」

 綾音はおじさんの顔をじっと見つめた。

「君は……もしかして、彩か?」

「え?」

 おじさんは、綾音をじっと見つめた。

「あの、見えるん、ですか?」

 しかし、そんなはずはない。僕以外の人に綾音の姿が見えるはずない。

 それなのに、おじさんは綾音の瞳をじっと見つめている。

「すんません、あの、私彩じゃないです。綾音です。」

 おじさんは我に返って慌てた。

「え、あ、そうだったか。すまない。彩の小学生の頃とそっくりでな……。」

 そのときの表情が、とても悲しそうだった。



「本当にすまない。」

 僕と綾音と彩の父親は、学校の食堂で話をしていた。

「そういえば、勇気くんって、霊感あるのか?オレは無いんだけど……。」

「僕も霊感無いですよ。」

 僕以外の人に綾音が見えるというのは、今までで初めてだ。

「綾音ちゃんは、ユーレイ?じゃないもんな。それじゃあ、妖精みたいな?」

「まあ、そんな感じです。」

 綾音は、彩の父親に会ってからずっと、下を向いている。

「勇気くん。私ちょっとトイレ行ってくる。」

 綾音は立ち上がって、後ろを向いた。

「え?ちょっと、綾音?」

「すぐ戻るから!」

 綾音は走り出し、行ってしまった。

「綾音ちゃん、何かあったのか?」

「さあ……。」

 僕は綾音の行った先を見つめた。

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