第61話 ラグナロク~二つの決着~


 雷が弾け、文字通りの『爆雷』となって周囲一帯を吹き飛ばす。


 青と白の甲冑たちは粉々になりながら四方に散っていき、水色は一瞬にして蒸発していった。

 後に残ったのは、大きくえぐれた地面と、その中央で倒れている梓と穂乃華の二人だけだ。


 葉月は激痛に耐えながら立ち上がり、仰向けで倒れている綺花に近づく。

 顔色は病人のそれで、呼吸の音もおかしい。


「私は骨が折れてますけど……綺花の方が重傷ですね」

「あはは……。さっきので体力を根こそぎ持ってかれちゃったよ……。悪いけど、肩貸してくれる……?」

「お互い満身創痍ですね。これじゃどっちが勝者なのか分からないですよ」


 葉月は足と綺花を引きずりながら、クレーターの中央に倒れている二人に近づいていく。

 梓と穂乃華の手足からは、血ではない赤黒い液体が流れており、もはや【エインフェリア】という存在ですらないことがハッキリと分かった。


「ふー……文句のねぇ完敗だ。三度目でやっとスッキリしたよ。一度目は不正をした教師を正そうとしたら首を絞められて、二度目は悪い神様の不意打ちを受けて……。全く、ろくでもない死に方ばっかりだ。沙霧の理想郷に混ざれないのは残念だが……きっとヴァル先生を裏切った罰だな……」

「穂乃華も……なんか目が覚めた気分です。今までずっと良い夢を見てきたけど、途中から悪い夢に変わっちゃって、でも目が覚めれば良い夢の記憶だけが残っている。そんな気分です……」


 二人は、満足した顔で消えていこうとしている。

 だが葉月は二人の手を掴み、それを食い止める。


「貴方たちは本物のバカです……! 早く、立ち上がって下さい……!! 今すぐヴァル先生に謝るんです……!! そうすれば、もしかしたら……」


 葉月は大粒の涙をこぼしながら、二人の手を引っ張って無理矢理立ち上がらせようとする。


「……アタシも手伝うよ。ちゃんと謝って……それで終わりにしようよ」


 動かない身体に活を入れ、綺花も二人の手を引っ張りあげる。

 しかし、身体の崩壊速度が速く、立ち上がらせることすら叶わなかった。


「ヴァル先生に伝えて下さい……。ごめんなさいって……。穂乃華は……悪い生徒だったって……」

「アタシからも頼むよ……。それに……もう一つ。アンタらは、アタシたちのようにはなるなよ……」


 やがて二人は、跡形も無く消え去っていってしまった。

 残された二人は、声を上げて泣き出した。



 ◇----------◇



 一直線に薙ぎ倒された木々。

 あちこちに散らばった赤黒い甲冑と、黄金の欠片。

 そして……大の字になって空を仰いでいる二人。


 あぁ……今日も雲一つない良い天気だ。

 大道寺は、大きくため息を漏らした。


「なぁ、お前さんが目指してる理想郷って、本当にハーレムエンドなのか?」

「あ? なんだよ急に」


「エロい人には分かるんだよ。ただのハーレムが欲しいなら、オレの条件をのんでいたハズだ。なのにお前さんは、それを拒否した。……なぁ、本当の所はどうなんだ?」

「……うるせぇな。決着はついたんだから、黙って消えろよ……」


「ゲロしちまいなよ。どうせオレはあと少しで消えるんだ。他にバレる心配もないだろ?」

「……ハーレムが欲しいのは本当だ。けど……ハーレムエンドになりたいワケじゃない。見つけたいんだ、彼女以上の人を」


「ハハッ、盛り上がる話じゃないか。続けてくれよ。オレが痛みを忘れるぐらいに面白くしてくれよ」

「ケッ、面白くなんかねぇよ。俺は忘れたいんだよ、彼女のことを。心底俺を惚れさせたクセに、さんざん俺を振り回して留年させたクセに、笑ったままどっかに消えて行っちまった。……あぁ、一つだけ笑いどころがあったな。学年トップで東大確実と言われた俺だが、恋に溺れて転落人生一直線さ。どうだ? 笑えたか?」


「ヘッ、そいつは男として本望な生き方だろ? どこが笑えるんだよ? 恨めしくて痛みが倍増だわ」

「……まぁ、とにかくそういうことだ。世界中の女子が集まれば、彼女より素敵な人が一人ぐらい現れるだろ……」


「この、泣きエロゲーみたいなピュアボーイめ。三千世界の向こう側で、お前さんの理想郷が失敗に終わることを願っててやるよ。その彼女に会ったら言っとけ。【ヴァルハラ】で永遠に大爆発しろ、ってな」

「……余計なお世話だよ」


「あぁ……チクショウ。最後にヴァル先生と会っておきたかったな……。いっぱい謝って、それから……」


 やがて、善治郎の声は聞こえなくなった。

 大道寺は、雲一つない空を眺め続けていた。


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