第60話 ラグナロク~失敗とチャンス~
沙霧の姿を借りた巨人族――フリュム。
まるでこちらの手の内を知り尽くしているかのように、僕の必殺技はことごとく無効化されていく。
全部の『ごほうびポイント』を注ぎ込んだのに、瓶のストックはそれぞれ一つずつにまで減っていた。
自分の裏切りをごまかすための嘘かと思ったが、自ら巨人族だと名乗るだけあって、その実力と知識は紛れもなく本物だ。
「どうしてそこまでヴァル先生を狙うんだ!? ヴァル先生がいったい何をしたっていうんだ!?」
ずっと疑問に思っていた。
ヴァル先生の話を聞いた限りでは、大昔にあった【ラグナロク(神々の黄昏)】という戦争からずっと追いかけ回していたことになる。
最初は、【ヴァルハラ】に行くための【ビフレフト】が欲しくて、この島まで追い続けていたんだと思っていた。
だが、それは間違いだった。
【ビフレフト】が欲しいのは沙霧であって、巨人族の残党じゃない。
巨人族の本当の目的は……ヴァル先生の抹殺だ。
だが、どうしてだ?
人間の身体を乗っ取ってまで、狂気的としか言いようがないほど執拗にヴァル先生を狙う目的は何なんだ?
「……我々古き神々の役目は、失敗に終わったのだ」
フリュムは、重々しい口を開く。
「秩序ある世界の維持に失敗し、混乱と戦争を巻き起こした。そして……預言されていたように【ラグナロク】が起こった。全ての古き神々は、貴様ら【エインフェリア】と同じようにそこで勇敢なる死を迎える必要があった。それが失敗した者への罪であり、我々に課せられた最後の役目でもあるからだ」
正直、話のスケールが大きすぎてついていけなかった。
だがそれ以上に、そのくだらない理由に僕は呆れかえっていた。
「なんだよ……失敗したら終わりなのか? 神様のクセに、失敗したらもうお終いだーって絶望して死ぬのか? そんなの……人間以下じゃないか」
僕なんて失敗だらけだ。
真衣を事故に遭わせてしまった後は、毎日が絶望で死にたくなった。
けれど……今こうして生きている。
「僕は……ヴァル先生からやり直すチャンスを貰った。だから僕も、ヴァル先生にチャンスを作ってあげたい。人間はやり直せるのに、神様がやり直せないのはおかしいじゃないか。どんな神様だって、絶対にやり直せるハズだ」
僕は地面に剣を突き立て、<災禍の剣レーヴァンテイン>を発動させる。
既にかわされた攻撃。
だが、目的は攻撃じゃない。
「お前がどうしてもそれを許さないというのなら……僕もお前を許さない!」
僕は周囲を覆う炎に向けて、鞘を投げ捨てる。
燃え尽きたそれは灰になり、僕の身体の中に入ってくる。
「これが、僕の最後の手だ。お前が知っていようが知っていまいが関係ない。人を殺すのは絶対にイヤだ。人殺しと呼ばれるのもイヤだ。……だけどな、神殺しなら悪い気分じゃない」
最後の瓶を取り出し、地面に突き刺した剣に直接垂らす。
耐熱手袋など使わず、手を焦がしながら直接柄を握りしめる。
「刃紋は無く、刀身も無く、もはや戻る鞘も無し。<捨鞘の剣ダーインスレイヴ>!」
柄を引き上げると同時に、周囲の炎が剣に集まってくる。
柄から先の刀身は錆びて折れ、代わりに純粋な炎の塊が巨大な剣となってそこに存在している。
「炎なら、その木を燃やせるだろ? 木炭にして、お前ごと粉々に砕いてやるよ!!」
獣のように吠えながらフリュムに飛び掛かる。
理性などとうにない。
この魔剣は、誰かを斬り殺すまで止まらないのだから。
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