第49話 最後の晩餐
夕飯時になり、僕らはいつも通り食堂に集まる。
銭湯に入ったお陰か、ちょうど良い感じに腹が減っているし、心地よい気怠さがあった。
真向かいに座っている綺花は未だにプンスカと怒っているし、葉月は顔を真っ赤にしてうつむいたままだ。
「次覗いたら、<雷神トール>印の電気風呂に叩き込むからね!」
覗いたも何も、そっちから男湯に来たんだが……。
百歩譲って、多分見てしまった――記憶がだいぶ曖昧だが――僕よりも、結局何も見ることが出来なかった大道寺の方がボコボコにされているのには、さすがに同情をしてしまうな……。
「さて……」
場を取り繕うように、僕は天井を見上げる。
ケガは治ったし、銭湯で英気も養えた。
重い話は嫌いだけど……そろそろ対策を考えないと。
多分、時間はもうあまり残されていないだろうから。
「前に来たアイツらについて相談したいんだけど、いいかな?」
僕がその話について切り出すと、食堂内の空気がピリついた。
「何? 話をそらす気? 食べ物と同じで、覗かれた恨みは怖いんだからね」
一人だけピリついた意味が違ったらしく、綺花がジロリと睨んでくる。
……それが同格ってのもどうかと思うけど……。
「悪い、恨みも恥ずかしさも今は抑えてくれ。本気になって話さないと、かなりヤバイと思うから」
僕は自然と両足をさすっていた。
今までふざけて戦ってきたというワケではないが……今度の敵はランクが違う。
僕らの前任者で、同じ【エインフェリア】なのだから。
僕の本気が伝わったのか、綺花と葉月は真剣な顔で話に耳を傾ける。
さすがの大道寺もそれに加わってくれた。
「多分だけど……次がこれまでで一番の防衛戦になると思う。少ない数で来ても無駄だし、本当の敵は元【エインフェリア】たちだと既にバレている。だから対策を練られる前に、一気に畳みかけてくると思うんだ」
「アイツらが裏切った理由は考えないの? アタシはそれが一番気になっているんだけど……」
綺花が手を上げて質問した。
「……正直、僕も気になっている。けど、それは一旦置いておこう。それよりも大事なのは、ヴァル先生を守ることだ。アイツらは、【ビフレフト】よりもヴァル先生の命を狙っている」
「守るということは……この学校で籠城戦をするということですか?」
葉月は難しそうな顔で言った。
「……それは無理だと思う。守るにしても、人数が少なすぎる。それに、ヴァル先生を守れたとしても、【ビフレフト】を奪われたらどのみちアウトだ。単に優先順位が違うだけで、敵はそのどちらも狙っているんだから。学校を戦場にするのは避けるべきだと思う」
「つまりテメェは、ヴァル先生と【ビフレフト】を守りつつ、その上学校じゃない場所で戦いたい、と? ……さすがに無理があるだろ。どうやったか知らないが、敵は直接ここに来たんだぜ?」
大道寺は、僕が一番危惧している所を的確に突いてきた。
そうだ。その通りだ。
敵は、大量の仲間を引き連れてこの学校に直接来た。
方法は分からないが、その対策をしない限り……いや、待てよ……?
「ヴァル先生、一つ質問したいことがあります。もし僕らと『ブルー・アックスアーマー』たちが同時に学校の敷地内に到着したとしたら、どうなりますか?」
「……その質問は、沙霧 真にもされたわね。敵が【エインフェリア】を認識している以上、学校に来たからといって貴方たちの姿が目の前で消えることはないわ。鍵付きの扉が閉まる前に滑り込むのと同じで、例え時間が経っていなくても学校を認識できてしまうわ」
調理場に居るヴァル先生は手を止め、振り向かないままカウンター越しに答えた。
やっぱりか。元生徒たちが直接この学校に甲冑たちを誘導したのか。
……となると……?
いや、ダメだ。まだ疑問が残っている。
あの不可解な行動に説明がつかない。
……けど、もしかしたらそれは、一連の騒動の終着点なのかも知れない。
だとすれば……もしかしたら……僕たちはとんでもない思い違いをしてるんじゃないか……?
もし、もし僕の想像通りだとしたら……。
「みんな、お願いがある。僕の作戦を……聞いてくれないか?」
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