第48話 温泉~湯船の決闘~
「……なんて言うと思ったか!? ダメなもんはダメに決まってるだろ!!」
僕は手を振り払い、逆に大道寺の頭を両手で掴んで怒鳴りつけた。
「あぁ!? テメェに俺を止める権利なんかねぇだろが!! ダメな理由を言ってみろ!!」
「そ、それは……なんとなくムカツクからだ!!」
「理由になってねぇぞ!! この、去勢犬が!!」
「あるわ!! ちゃんと立派なのが!! お前より立派なもんが!!」
「おぉん? テメェ、馬並みの俺よりデカイだと?」
「ハッ、馬並み? ミニチュアホースの間違いだろ?」
『ミニ』という言葉にカチンときたのか、大道寺は僕の手を振り払って立ち上がる。
「テメェ……言っちゃいけねぇことを言いやがったな? タオルを取りな。一騎打ちといこうじゃねぇか!」
大道寺の挑発に乗り、僕も立ち上がる。
上等だ。男の名誉をバカにされて黙っていられるか。
「いいよ、やってやろうじゃないか。お前のマイナス属性に、『アレが小っちゃい』って追加してやる!」
お互いタオルの結び目に手をかけ、ガンマンの決闘の如くそれを――。
「……日本の温泉では、湯船の中で睨み合うのがルールなのかしら?」
この場に最も似つかわしくない、凛とした声が湯船に反響する。
予想外過ぎる乱入者に、僕らは慌ててソレを隠した。
「えっ? えぇっ!? ヴァ、ヴァル先生!?」
湯煙の向こうに、白く透き通った雪のような素肌が見える。
タオルすら持たず、一糸まとわぬ姿のまま、悠然と僕らの方に向かって歩いてくる。
「う、うわわわわっ!? な、なんでこっちに!? ちょっ!? うわぁっ!?」
僕は反射的に顔を背けた。
見たくないワケじゃない。むしろ見たい。
けれど、あまりにもいきなりだったから、見る覚悟がまだ出来ていないというか、本当に見ていいのかパニックになったというか……。
男として間違った反応だろうかと思い、横目で大道寺を確認すると、僕と全く同じ反応だった。
何となくホッとした。
「なんで、とはどういうことなの? 温泉は皆で入るものでしょう? ……そういえば、宮瀬 綺花と葉月 美冬の姿は見当たらないわね。どこに行ったのかしら?」
ヴァル先生は恥じらうことなく、むしろ僕らよりも堂々とした様子で周囲を見渡している。
そういえば……ヴァル先生が授業で言っていた気がする。
北欧にも温泉文化が根付いていて、友人や家族全員で入るのが当たり前なのだという。
だからヴァル先生には、銭湯というか、温泉は男女別だという感覚すらないのかも知れない。
「クッ、僕にはもう力の制御が出来ない……!」
「静まれ……! 静まれ、俺のゴッド・ソードよ……!」
だからといって、僕らにこれは刺激が強すぎる。
ある意味正しい高二病だよ。
ヴァル先生は不思議そうに首を傾げ、動こうとしない。
僕らはいろんな意味で固まって動けない。
誰か、誰かこの絶体絶命のピンチを救ってくれ……!
「ちょっ、ちょっとヴァル先生!? そっちは男湯だよ!!」
「あっ!? き、綺花もちょっと待って下さい! そんな格好で行ったら……!!」
現れたのは救世主ではなく、更なる乱入者たちだった。
綺花もタオルすら持っていない状態で、陸上で鍛え上げた無駄のないスポーティーな身体が湯煙の向こうにハッキリと浮かんで見える。
一方葉月は、タオルで大事な部分を隠しているものの、長さが足りないのか必死に手で抑えている。
それが逆に胸を強調する形となり、今にもこぼれ落ちそうなボリュームとなっている。
「あっ……犬飼……」
綺花とバッチリと視線が合ってしまった。
我に返った綺花は、のぼせた時よりも顔が真っ赤になっていく。
「……あ……。……うぁっ……! ギ、ギャーーーーー!! み、見るなぁぁーーーー!!」
大道寺が振り返る寸前の所で、綺花は首が折れそうな程の強烈な跳び蹴りをかまし、湯船の中に沈める。
更に返す刀で足を振り上げ、強烈な『かかと落とし』が僕の頭に突き刺さった。
おぉ……神様……どうして男としての願いを叶えたのですか……?
一瞬新しい世界が見えた気がするが、湯船と共にその記憶は沈んでいった。
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