第30話 時をかけない大道寺
「うう……俺、汚されちゃったよぉ……」
大道寺は上半身裸で、ナヨナヨと床に崩れている。
結局、大道寺からはカンペらしきものは見つからなかった。
「……うるさい。僕の方がよっぽど汚れた気分だよ……」
『大道寺印』の臭い爆弾を直接鼻に入れられた気分だ。
何度鼻をかんでも、独特の男臭がいつまでも鼻の奥に残ってとれない。
「クソぉ……。後輩の女子に攻められるなんて、理想のシチュエーションだったのになぁ……」
「……後輩の女子?」
大道寺が何気なくボヤいた言葉に、激しい違和感を覚えた。
「……あっ、ヤベッ……!」
しまった、という顔で大道寺は慌てて口を塞ぐ。
「後輩の女子って……え? あれ? 全員二年生のハズ……だよな?」
僕は思わず辺りを見渡してしまう。
そりゃ確かに葉月は同い年に見えないが、そういう口調ではなかった。
ここに後輩なんて居ないハズなのに、そういう言葉が出てくるということは……?
……ま、まさか……?
「ハッ……ハッーハッハッ! よくぞ見破ったな! そうだとも! 俺の時間軸は何者かによって歪められ、タイムリープして二回目の二年生を送っているんだ!」
大道寺は机の上に立ち、両手を挙げて高笑いをする。
……勢いでごまかしたつもりなんだろうが、全員どん引きだ。
「潔く留年してるって言えよ……」
「うわあ……。留年してる人なんて、アタシ初めて見たかも……」
「なるほど、ようやく納得出来ました。確かにカンニングではなさそうですが……何か……悲しくなる結末でしたね……」
テストの結果よりも衝撃的な事実が判明してしまったようだ。
この四人の中に、実は留年している年上が居たなんて。
「おぅ、そうだよ俺は先輩なんだよ。だから明日から、全員『さん』付けしろよ?」
大道寺は机の上に立ったまま、逆に開き直って威張り散らし始めた。
……高い所に立って、少しでも自分を格上に見せようとしている時点で発想が小者くさいというか、格言通りのバカっていうか……。
「お前に『さん』付けするぐらいなら、本物の馬に敬語を使うよ……」
当然だが、誰も先輩扱いをしない。
「ねぇ……なんで留年なんかしちゃったの?」
さすがは突撃隊長の綺花だな。
一番聞いちゃいけないことをどストレートに言うなんて。
「それは……その……」
大道寺は言い淀み、目を伏せる。
……暗い顔を初めて見たな。
よほどの事情があるんだろうか……?
「……秘密にしておこうかな? 男はミステリアスな方が魅力的だろ?」
そう思えたのも一瞬で、大道寺は決め顔のイケメンボイスで言った。
ウザい。その一言に尽きる。
それにミステリアスというか、よりインチキ臭くなっただけだ。
僕らはそれとなく距離をとり、こっそりと話し合う。
「なんで留年したんだろな……?」
「先生にセクハラとかしたんじゃない? それで停学になりまくったとか」
「そうですね。確実に警察沙汰の不祥事だと思います。それも、新聞に載るレベルの」
誰一人としてその辺を疑わない辺り、さすがというべきか、普段の行動がいかに大事というか……。
それにしても、武器は謎のヒモで、最弱で、エロ馬で、しかも留年してるだなんて……。
マイナス属性の展示会みたいだな。
前世でどれだけの悪行をしてきたんだろうな……?
「まぁ……生涯一勝も出来なかったのに、逆に可愛がられた競走馬も居るんだから……その、頑張って生きていこうな……?」
「やめろ! 急に優しくすんな! ……ってか、全然励ましの言葉にもなってねぇよ!」
※
テストがあったその翌日、普通の学校と同じように土日は休みなのだが――敵が来たら月曜日が振替休日になる――僕は平均点以下、つまり赤点扱いのため、補習を受けるハメになってしまった。
……クラスの平均点が七十点オーバーって異常だろ。
授業態度は真面目だし、点数もそこそこ良いのに、なんか納得いかないなぁ……。
深いため息と共に教室を開けると、ある意味一番会いたくない人物がそこに座っている。
「よぉ、赤点組。貴重な土日に補習とは、ご苦労様だな」
大道寺はニヤニヤと笑いながら言った。
……殴りてぇ、この笑顔……。
「うるさい。お前が低い点数をとらなかったせいだ。……ってか、そっちこそなんでここに居るんだよ?」
「あぁ、ヴァル先生のお美しいヒップをガン見し過ぎたから、その反省文を書かされてるだけさ」
「……お前の方こそ、人生赤点組じゃないか」
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