第31話 ドキ!?男だらけの補修授業!


 補習というからにはヴァル先生とのワンツーマンなんだろうなぁと思っていたが、補習用のプリントを数枚置いていっただけで、一分と経たずに教室を去って行ってしまった。

 これじゃ強制的な自主勉強と何ら変わらない。


 ……別にそういうのを期待していたワケじゃないよ。

 ワケじゃないが……なんか寂しいなぁ……。


「……そういや犬飼って、『ごほうびポイント』で何貰ってんの? 全然ポイントがない、ってぼやいてるクセに、物が増えてるようにも見えねぇけど」

「あー……戦闘用の消耗品っていうか、【流るる神々】のオプションパーツに近いのかな? まぁ、それを貰ってる。けどアレ、強いんだけど高いんだよ。リアル廃課金者になった気分だわ……」


 ソシャゲでも【エインフェリア】でも、ポイントを使えば使うほど強くなる、ってのもなんだかなぁ……。


「そっちこそどうなんだよ? 最初はトランプとかいろいろ貰ってたのに、最近は全然無いように見えるけど?」

「オセロに囲碁にチェス、人生ゲームにダイヤモンドにバックギャモン……。いろいろ貰ったのに、結局トランプしか遊ばなくなるんだもの。そりゃ止めるよ」

「まぁ確かに。みんなで毎晩遊んでるのに、全然飽きないってのも何気に凄いよな。本当、トランプは万能だわ」


 どうでもいい会話をかわしながらも、ペンだけはちゃんと進んで行く。


「そういえば綺花と葉月は? 朝から見てない気がするんだけど」

「葉月ちゃんは立派な釣り竿を持って、夜明け前に出かけていったよ。普段は変質者を見るような扱いなのに、『これで寿司の材料を釣るんです!』って嬉しそうに語ってたな」

「なるほど、良い釣り竿が欲しいって言ってたのはそのためか。……疑問に思ったんだけどさ、この辺で魚って釣れるのか?」


 何度も海や川を見ているが、魚影らしきものを一度も発見したことがない。


「品種は分からんけど、一応釣れるみたいだな。昨日は宮瀬に寿司を振る舞ってたらしい」

「へぇー! それは凄いな! いいなー、僕も寿司食べたいなー」


 大好物というほどではないが、月一で回転寿司に行くぐらいは好きだ。

 まさかこの島で寿司を食えるなんて、葉月様々だな。


「そうか、そんなに食べたいか。……さっきの続きだがな、宮瀬は昨日から『原因不明』の食中毒に遭い、あの食魔人が朝食も摂らないで寝込んでいる」

「……えっ!?」

「良かったな。葉月ちゃんが今日釣りに行ったのは、俺達の分なんだとさ」

「……『ごほうびポイント』で正露丸って貰えたっけ?」

「分からん。けど、あったら俺の分も頼む」


 ウチではお祝いことに寿司は欠かせない存在で、子供の時から出前で届くと凄く嬉しかった。

 ……けど、今日生まれて初めて寿司が届くのが怖いと感じた。



 ※



 課題のプリントはあと少しで終わるが、何となく飽きてしまい、あくびを噛み締めながらエンピツを放り投げる。

 大道寺もヒマをしているかと思ったら、意外にも真面目に反省文を書いているようだ。


 ……反省文って、何を書くんだろ?

 中身が気になったので、横からそっと覗いて見る。


『ヴァル先生のお尻は神懸かりに魅力的で、何人たりとも視線を外すことは出来ず、私もそれに魅入られただけなのです』

『ヴァル先生の豊満な胸はまるでエベレストのようで、山があるからこそ人はそこを目指し、神の頂きを拝むまで挑戦することを止められないのです』


 コイツは何を書いているんだ?

 反省文なのに、反省の欠片も見当たらないのはなぜだ?


「……なぁ、お前の理想郷ってどんなの?」


 あまりにも馬鹿げた文章に、ついそう聞いてしまった。


「前にも言ったろ? 人口七十億人に対して、男は俺一人。超ウルトラハーレムが俺の【ヴァルハラ】だよ。すごいぞー? 七十億人が俺の所に押しかけてきて、毎日『棒倒し』や『バトンリレー』の大運動会でしっちゃかめっちゃかの大忙しさ」


 ウハウハと下品に笑いながら、何かを揉みしだくように艶めかしく指を動かす。


「なるほど、全世界の人口分ってことは八十歳のおばあちゃんもそこに参加するワケか。いやはや若いね」

「……そしたら勝手に棒が倒れるわ、バトンがバトンでなくなるわで運動会は中止だな……。って、このバカ犬が! 人の神聖な【ヴァルハラ】を汚すんじゃねぇ! 永遠に歳をとらない十代後半から三十代前半しか居ないに決まってんだろうが!」

「どの辺が神聖なんだよ。全く、聞くんじゃなかった……」


 本当に最低なエロ馬だ……と、僕はバカにすることが出来なかった。

 なぜなら、決して口にはしないが、男なら誰しもが一度は夢見る妄想だからだ。

 ……そういうシチュエーションモノに、お世話になったこともあるしなぁ……。


 でも、なんだろう?

 大道寺が語る【ヴァルハラ】には、どうしても引っかかる所がある。

 上手く言葉に出来ないけど、何かが違うっていうか、こう――。


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