第48話 当番
外は寒波の影響で、猛吹雪となっている。自分のいる待機室は頑丈なつくりとはいえ、ごうごうと吠え狂う音に身がすくんだ。ほんのすこしだけ。
着慣れたセーラー服に腕章をつけると、「当番」の装備は完了だ。ハードな仕事とはいえ、今日は気の良い友達と一緒だから心強いに決まっている。うん、だいじょうぶ。
待機室には、自分以外に学生服の少年がふたりいた。
どちらも自分と気の合う遊び友達で、性格は片方は硬く、片方は柔い。硬いほうはいつもより表情を硬くして、自分と、もうひとりを見つめている。
「だいじょうぶだって。もう何度もやってるし」
そう声をかけても、彼は表情を変えない。
まあね。「当番」は確かに危険だけど、命を落とすほどじゃない。危険なことといえば、自分のなにかが‘削れる’かもしれないだけだ。それも滅多に起きない。
「ん」
表情が柔い少年から、口をつけたばかりのフラスコを受け取った。「当番」はこれを回し飲みしてから仕事に向かう。実際、飲まないと「当番」はできない。
とはいえ…。
フラスコの中身は黄とも緑ともつかない透明な液体で、どろってしていて、味は最悪。これさえなきゃ「当番」はいくらでもやるんだけど。
ちゅうちょしていたら、友達が笑った。
「はやくしろよ。ちゃっちゃと行ってこようぜ」
「ん」
鼻をつまんで一気に飲んだ。どろりとした苦甘さが喉を通る。うげえ。フラスコをテーブルに置こうとしたら、横からかっさらわれた。
え。
硬い表情をしていた少年が、残りを一気飲みした。彼は当番じゃないのに。柔いほうが声を上げる。
「おい、ふたりだけでいいんだぞ!? おまえはここで待っ」
「そうだよ、なんで」
「行く。おまえらだけでは嫌な予感がするし」
言葉を切って、私をにらんだ。
「おまえがどこに行こうと、そこに俺も行く」
え?
柔い少年がニヤニヤ顔で硬い少年の肩を叩いた。叩かれたほうは、うるさいと言いながら予備の腕章をはめる。
自分だけが、意味をつかめない。腕を取ると、真っ赤になっている。
「ねえ。顔赤いよ、アレルギー反応出たんじゃないの」
「これ、これは違っ」
(聞いていた柔いほうが爆笑したけど、なんで?)
「ねえ、どこにでもついてくるってどういうこと? それってどこでなにしてても来るってこと?」
「そういうことだっ」
「じゃあじゃあ、たとえば」
「うるさい。行くぞ!」
「ちょっと。ねえってば!」
もう猛吹雪の音は怖くなかった。
ここで目が覚めた。まさかのラブ展開。
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