第29話 境界の入口
たまたま会った人はローカル旅行記事のライターで、取材同行に誘われた。承諾したのは暇つぶしにちょうどいいと思ったからだ。
目的地は山の奥の小高い丘の上にあった。活火山らしく、硫黄のにおいが立ちこめていて山道のあちこちからも湯気が上がっていた。掘ればいい温泉が当たりそうだ。
観光案内人に連れられ、山のふもとの資料館に来た。そこはシンプルかつ綺麗な建物で、まだできたばかりだという。今回はここのPRなんだろう。ライターは取材に取り掛かり忙しそうだ。自分は展示物を見て回ることにした。
展示されている物は出土した物とか歴史を書かれた書物かと予測したが、そういった物はひとつもなく、黒こげの日用品ばかり並んでいた。どうやらこの近辺に住んでいた人々の遺品らしい。資料館というより納骨堂みたいな雰囲気を感じた。
一番おおきなガラスケースが現れた。白木のお社が入っている。なかなか立派だけど、この遺品ばかりの資料館に神社を展示する必要があるだろうか。いったいどういう理由なんだろう。
「おーい」
ライターに呼ばれた。案内人が別の場所を案内してくれるそうだ。なにか引き留められるような気配を感じつつ、資料館を後にした。
「こちらです」
公園を抜けた奥の間た奥、茂みに隠されるように、その白い社はあった。展示されていた物はこれのミニチュアだ。実物はなかなかおおきいもんだ。
ふと、すぐ脇の薄暗い茂みの影に、ひっそりと穴があることに気づいた。
覗き込むと、穴のなかに卒塔婆がいくつも立っているのが見えた。こんなところだからこそ、隠すようにお墓があるんだろうか。
突然、場所がぐにゃりと歪んだ。
やばい。
あの世につながる。
呑まれてしまう。
あわててお経を唱えたらゆっくりと元の場所の落ち着いた。
遠くでライターが「置いていくよー」と呼ぶのが聞こえた。そこから離れるように駆け出した。
ここで目が覚めた。
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