第28話 私という存在
私は普通の学生だ。常に成績トップ。学年代表である事実は近所中でも有名らしく、顔の知らない母と街を歩けばかならず通行人に声をかけられていた。
「こんにちは。あなたにお会いできて幸せです」
「すばらしいお嬢さんです。どのように育てたのですか」
私はいつものように頭を下げ、母は苦笑いでかわしていた。
頭のいい人はたくさんいるのに、どうして自分たちは声をかけられるのだろうと母に言ったことがある。母はあの苦笑いで黙ってしまった。母にもわからないのだろうか。
買い物を終え、商店街を抜けて人がまばらになった頃。私たちの前を歩いていた少女が突然倒れた。周囲に人影もなく、救急車を呼ぶ母の隣で少女を助け起こした。
あれ。
彼女は初対面なのに、青ざめた顔はどこかで見た顔だった。誰だろう。私の記憶力はいいほうだけど、彼女と会った記憶はない。
それきりになると思ったが、病院の救急外来で、彼女の家族が来るまで母と待合室に待機することになった。しばらく帰れないだろう。
病室から医師が出てきた。一直線に母の元にくる。なんの用だろう。
「もしかして、あなたの娘さんは…」
「はあ、まあ、ええ」
ここでもか。私は会釈し、母はあの苦笑いをする。医師は笑顔で手を差し出してきた。
「ああ、やっぱり! 握手してください!」
倒れた彼女よりこっちが大事って、変な医者。また母はいつもの対応をするのだろうし、同席したくもない。
医者が患者から離れたってことは、彼女は落ち着いたんだろう。彼女の元へ向かうことにした。知らないはずの彼女をどうして自分が見覚えがあるのか知りたかった。
ベッドを覗き込むと、タイミングよく少女が目を開けた。
「あ」
彼女は驚き、申し訳なさそうに照れた。やっぱり私の知っている顔だ。でもどこで。彼女は小声でお礼を述べた。
「まさか貴女に助けられるなんて。ありがとう、うれしいです」
「どうして私を知ってるの?」
「え? だって、貴女はオリジナルでしょう?」
一瞬で見覚えがあることも母や周囲がとる態度も納得した。
少女はコピー。つまりクローン人間で、私は少女のオリジナルなのだ。少女も私も同じ顔で、違うのは目や髪の色だけ。
優良児のみを量産するシステムがあると聞いていたけれど、まさか自分がそうだと思わなかっただけだ。
ここで目が覚めた。
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