第27話 ちいさな島のみっつの家 3軒目
〈3軒目 毎日パーティをする家〉
ここは島の老人ホーム。静かな老後をここで暮らそうと今は20数人が住んでいる。彼ら年老いた島民はここで波の音を聞きながら散歩、チェス、読書やおしゃべりなど思い思いに穏やかな時間を過ごしているのだ。今日の昼食はカロリーを抑えた栄養たっぷりの魚料理だ。3時のお茶も彼らは優雅に楽しむ。実に夢のような老後生活だ。
夜はそれぞれベッドに入って休み、夜間は2回、警備員が巡回する。
しかし。
おや。ベッドにお年寄りたちが、いない。
ここにもいない、隣室にもいない。
誰もいないではないか!? いったい何が!?
警備員が苦笑した。
「そりゃそうさ。この時間は皆、地下に行ってるからね」
地下!?
警備員の案内に導かれて地下に行くと、なんとライブハウスがあるではないか。ステージではどぎついメイクをした若者が力強いシャウトをしている。耳をつんざくハードロックにちょっとメタルも混ざっているようだ。ボーカルが「キル」「デス」と叫べば着飾った男女が「キル」「デス」とシャウトしていた。
まさか老人ホームの地下にこんな所があろうとは。それも場所に対してどうだろう、なんとも不謹慎な言葉が飛び交う。安息の場所の地下にこのような場所があるならお年寄りたちが逃げ出すのも無理はない。いったい管理者はなにを考えているのだろうか。
「あらあ、いらっしゃあい」
「こんなところまでご苦労様ねえ」
取材班に女性集団が声をかけてきた。細身の身体にちょっと派手すぎともいえるスーツ、首には太い鎖のネックレス。おおきな赤いバラつきの十字架。指にはめられた髑髏の指輪が光る。なかなか決め込んでいる。
「気づかない?」
「私たちよ。食堂で一緒にお茶したでしょ」
彼女たちはシワシワの腕をひらひらと振って、くわっと笑った。総入れ歯が丸見え。
驚いたことに、若い女性かと思いきや、老人ホームで優雅に紅茶を飲んでいたレディご本人ではないか。
まさか。振り返ると、髪を立てたおじいちゃんが拳をふりあげて「デス! デス!」と叫んでいる。鼻ピアスだけじゃなく舌にもピアスが光るおじいちゃんもいる。隅のバーカウンターではしぶい老紳士が赤いドレスをシックにまとめた老婦人とグラスを交わし、禁煙の老人ホームでは見られない葉巻を楽しむ。
「あんな生温い所に昼も夜もいたらしぼんじゃうわよ。だから私はここが一番好きね。生きてる気がするもの」
「うふふふ〜」
そう。
ここの老人ホームには地下にライブハウスがあるのだ。この島はあの有名ロックバンドの出身地であり、島のお年寄り達はハードロックが大好き。昼間は地上でのどかに過ごし、夜ともなればめいめいに着飾り地下のホールで叫び、踊るのだ。
今日のステージで叫んでいたボーカルにインタビューした。
「いやあ、はじめ聞いたらシケた所だと思ったんッスよ。ここにいる人が一緒にシャウトするなんて誰も思わないッスか。ねえ。でもぜんぜん、ときどきこっちが負けちまうくらい!! 最近の年寄りってすげえッスよ、最高ッスよ。だから今日も言うんスよ。「俺のベイビー」ってね」
ここを創立した老人ホーム所長にもインタビューした。
「地下のあそこは防空壕だったんです。がらんと空いてて、ちょっとしたホールにしていたんですよ。でもコーラスとかクラシックとかばかりで、かえってお年寄りがしなびてく気がしてね。はじめはほんのお試しで、彼らを呼んでみたんです。どうせ一度きりですぐ中止になると私も思ったんですよ。ところが大盛況!! それも次の公演はいつだと希望者が殺到したんですよ。半年に一度としたけど、それがすぐ月に一度、今じゃ週4日はこうですよ。お年寄りも以前よりお元気になって、私どもはうれしい限りです」
今夜も老人ホームの地下で、ボーカルが叫ぶ。
「お前ら全員ファ〜〜〜ック!!」
「うおおおお〜っ!!」
個性的な家がある小さな島。あなたも引っ越してきませんか。
ここで目が覚めた。一晩で3軒分の物件を巡った気分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます