第26話 ちいさな島のみっつの家 2軒目

〈2軒目 浮く家〉


 島にはちいさな入り江があり、そこには立派なモザイク模様のお宅が建っている。まるで入り江を覗くように建っているその家には、かつて仲のよい芸術家の一家が住んでいた。今は空き家になり、500万という破格のお値段で売られている。この美しい外観に破格の値段、なにかわけがあるのだろうか。

 中を見てみよう。中は普通のマンションのように整っている。ひろいキッチン、夫婦の寝室、子ども部屋もある。2階のベランダからは海を一望でき、実にロマンティック。

 なによりも目を見張るのは居間の中央にあるガラス張りの床だろう。実はこれはグラスボードになっていて、常に海中を覗き込む事ができるのだ。

 こんなにすばらしい家なのに、なぜ誰も住み着かないのだろう。

 ぎし。ぎぎぎぎい。

 突然、家が揺れた。まるで海の上にいるかのようにぐらぐらと不安定に動くではないか。

 外を見ると、おや? 景色が、動いている。いったい何事が起こったのだのろうか?

 そう。

 実はこの家、満潮になると海に浮くしかけになっているのだ。

 潮はモザイクの家を入り江の端にそっと置いて、引いていく。こうしてこのモザイクの家は毎日すこしずつ、入り江の奥へ引っ越していく形なのだ。

 そのためこの家は一年以上同じ住所に落ち着いたことがなく、入り江の独特な形と潮の動きによって、夏至は入り江の奥へ、冬至は入り江の出口に建っている。

 このゆかいなしかけは、まさしく自然が生み出したもの。建てた芸術家自身にも予想外だったらしく、本人も家族も陸地を恋しがって、早々に引っ越してしまった。以降、楽しもうと今まで何人かの変わり者が住んだらしいが、誰もが海のいたずらに負けて、すぐに出ていってしまう。

 定住地がない家に定住者はつかないのであろうか。不動産屋もお手あげのこの家、どなたか住んでみてはいかがだろうか。



 3軒目に続く。

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