第25話 ちいさな島のみっつの家 1軒目
(世界○見え特捜部的な番組を見ている感じの夢。長いので3部に分けてます)
大陸の南端も南端にちいさなちいさな島があり、今や家はほんの数軒、あとは老人ホームしかない。それも彼らの住む家はとてもふしぎな家で、彼らが独自がつくった家ばかりなのだ。
今回はそこを紹介しよう。
〈一軒目 老夫婦のお宅〉
その南端の島は観光地だったが、今やここの住人しか人の姿を見ないほど閑散としている。けっして豊かな土地ではなく買い物にも不便な島だ。しかし住人はここを離れようとしない。なぜだろう。
老婦人が答えた。
「それはしかたないだろう? 出るなって言われてるんだもの」
見た人は「この家に人が住んでいたのか」と必ず驚くだろう。老朽化が進んだ木造建築、草が伸び放題の庭。廃屋寸前としか思えないここに、彼女とその夫のふたりで暮らしている。
中を拝見すると、意外と住み心地は良いようだ。
簡素な寝室、彼女の夫の居場所である傾いた居間、最低限の家具しかないがトイレや狭いキッチンもきちんと使える。特に彼女は料理の達人で、パンを焼くのもお手の物。
昼過ぎ。島の配給車が家の前に止まった。彼女は新聞を受け取るようにパンと牛乳、ほかいくつかの食料品を受け取る。
「毎日こうやって配給されるの。これがないと私たちは生きていけないからね」
取材班は問う。
「ここを出る気はないんですか? 出たほうが生活は充実するかもしれないのに」
年老いた夫が肩をすくめる。
「そりゃ無理だね」
妻も同様の仕草を見せた。
「出してもらえないんだもの」
そう。
彼らは‘この家から出てはいけない’のだ。それがこの島の法律で、それに沿っているだけなのである。
一体彼らは何があって、今の状態になっているのだろうか。その疑問は夫が答えた。
「らくがきをしただけだ。そしたらこのザマさ」
妻も追って説明してくれた。
「だって、いきなりやってきて、ここは島の一部だから出てけって言うのよ。わたしはここで生まれ育ったのよ、ここに残るのが当然でしょ。ここから一歩たりとも動かないって言っただけよ。そしたら、こういうわけ」
どうやら彼らは、島の再開発に反発したらしい。そして島は彼らの意志を尊重した判決を下したのだ。
以来、こうやって毎日一日分の食料を配給するようになったという。
ちなみに島の一角には彼らが引っ越して住める家もきちんと用意されている。しかし老夫婦は出ていこうとしない。ここを終の住処としているのだ。
2軒目に続く。
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