第23話 逃走と対峙

 国ごと命を食われるかもしれない緊急事態。自分は国の要のひとつで、共(護衛)といっしょに逃げていた。

 当初、逃げるつもりはなかった。敵のねらいは自分だけだ。飛び出していけば

人も国も助かる。だからあいつの前にひとり出てやろうと思った。

 しかしそれは共たちにばれ、猛反対からの逃避行となったわけだ。やれやれ。自分が生きたいように生きられないものらしい。

 追ってくる敵は強大。そもそもあいつだけで、何千年分の命を持っているんだ。信じられない強さだ。

 対して弱小な自分。すべてを持っているあいつにとって食う価値などなかろうに。まるでゾウとアリの鬼ごっこだ。相手にすべきものは他にもあるだろうに、あいつはやたら自分を食らおうとする。どんな理由で追ってくるんだか、ただの暇つぶしだろうか。どちらにしろ迷惑この上ない。

 自分は唯一「目」が使える。千里眼とか呼ぶ国もある。おかげであいつの動きはよく見えた。あいつに見つかったと感じては逃げ、近づいたと知れば遠くへ向かった。

 この逃避行はいつまで続くんだろう。まさか一生じゃないだろうな。ぞっとした。


 その日は共たちが見つけた孤島の洞窟に入った。洞窟の中は海水で満たされ、その奥にぽっかりと出た岩の孤島だ。

 出入りにもひと苦労した。入口はちいさいし、海を泳がねばならない。まあ、確かにここならしばらく安全だろう。「目」で見ても敵の気配はないし、こんな不便な所にいるとは思うまい。

 火を焚くと、共たちはあわただしく立ち上がった。食料の確保に行くのだ。共は二人いて、いつもひとりは残っていたが、今回はふたりとも行かせた。ここならしばらく大丈夫だと思うし、ふたりで動けば食料も2倍得ることができる。

 気さくな方が笑った。

「すぐ戻ってきますからねー」

「サメに気をつけろよ」

 生真面目な方は、さらに表情を硬くした。

「いいですね。ちゃんとここにいてくださいよ!」

「へいへい」

 二人が海に飛び込んだ。「目」を使うと、ふたりの気配がとおざかっていくのがわかる。剣の腕もすごいが、泳ぐのも早いもんだ。感嘆が漏れる。

 はあ。どこに行っても世話を焼かせている自分がときどき嫌になる。役立たずこの上ない。こんな日々、早く終わらないかな。


 じわり。

 影が立ち上がるのを感じて飛び起きた。うたた寝していたらしい。

 遅れて、目の前の海面から黒く醜いものが姿を現した。舌打ちする。

 見つかった。

「やっとひとりになったな。見つけたぞ」

 こいつと向かい合ったのは二度目だ。広い洞窟なのに、天井につきそうなほどの大きさだ。以前よりでかくなっている。ここに来るまでにもいろいろ食ってきたのだろう。かといって自分も命をくれてやる気はない。

 護身刀を構えた。

「こんなチビまで追ってきて、ずいぶんシケた奴だな」

「おまえの40年、もらいうける。ありがたく思え」

「まだ足りないか、この強欲が。悪いがそう簡単に渡す気にはならんね」

「抵抗しても、なに。すぐだ」

 影は自分を丸呑みしようと覆いかぶさってきた。

 とっさに避けた反動で、そのまま背後の海面に落とされる。

 あ。

 護身のために隠していた髪飾りが流されて行くのが見えた。髪から落ちたのだ。

 その時、影に飲みこまれた。

 確かにすぐだった。



 ここで目が覚めた。

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