第20話 スリッパ

 会議室では、自分を含めて新人数名がおそるおそるテーブルを覗き込んでいた。

 そこには新品の片足だけのスリッパが10種類ほど並べて置いてあり、テーブルの向こう側には研修指導員が厳しそうな顔つきで立っていた。

「では実践してみましょう。このなかで一番鮮度がいいのはどれか」

 無言。

「先ほど説明したとおりですが、スリッパはなにより鮮度が大事です。これをよく見極めないといけません。さっき話しましたね。どこで鮮度を見るかーーはい、どこ?」

 冷徹な視線と物言いに怖気づき、指されたほうはおろおろとして答えられない。指導員は明らかにイライラとしていた。

「まったく…こんなことでどうしますか! ほらあなた! 鮮度を見るところはどこ?!」

 今度は自分の隣の人が指され、おろおろ答えていた。しかし正解ではない。

 自分がいつ指されるか怯えつつ、答えを考えていた。

 緑、茶、布、タオル地、竹、プラスチック、シリコン、などなどのスリッパ。

 これは魚みたく「目」と答えるんだろうか。

 それとも「縫い目」というんだろうか。

 艶や形も鮮度に関係あったような気がする。うーん。

 スリッパの鮮度を見極めるのはなかなか高度そうだ。



 ここで目が覚めた。

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