第5話 チュートリアル、突破

 うん……なんだか寝苦しい。

 寝苦しいだけではない。何かムズムズするのだ。下半身のあたりが。

「流石にこれだけ大きいと疲れるわね」

「お前……なにをしてる」

「何って足もみよ。レイヴン疲れてるだろうなーって。健全な、ね」

「そういうことでなくてな。テントはどうしたんだ。別のテントでねていたはずだろう」

「畳んできた。レンジャーの朝は早いの。それで、こっちのテントを張りに来た」

「他のことをするつもりだったんだろう……」


 うまいこと言いやがって……怒る気も失せた。


「あ、萎えちゃった。失敗ね」

「いや、こんな訳のわからん魔物が徘徊する森で、脱力してから出発しようなんて

胆力は、俺にはないぞ」

「今のところはね」


 その後、テントを片付け朝食の用意を取る。

鳥の魔物をスライスし薬草で味付けをしたソテーと、白ご飯だ。

 なぜ白ご飯がこんな西洋風世界にあるのかという疑問は言わないでほしい。

何故か普通に売っていた。いくつかを森と山を抜ける分のオニギリとする。

 ここまですべて、アイナが支度をしている。


「上手いもんだな」

「料理スキルを取ったの」

「そんなのもあるのか?」

「ええ。スキルは戦闘、戦闘補助、生産スキルに分かれているの」

「へえー。俺もなんか取ろうかな……どんなスキルが良いと思う?」

「私は『スナイプシュート』これはさっきの魔物の足止めスキルね。これと戦闘補助の『道具管理』、生産スキルの『料理』を取ったわ。全部レベル1ね」

「バランス型だな。ならおれは戦闘系スキルを取るか。『夜目』ってのは良いんじゃないか? これで夜も安心だろ。あとはそうだな……うん? この特別欄ってのはなんだ」

「ああ、それはあなたしか扱えないスキル群よ。説明を忘れていたわ」


 特別欄――それはゲームのシステムに介入することのできる、いわゆるチートのことだった。


「とは言え、このチートスキルはバランスを崩さないように、取得制限が加えられているけどね」

「うーん、というかそもそも一つ以外表示されてないな」

「ええ。特別欄レベル1 死に戻り一回無料券~今なら苦痛も百パーセントオフ!!~ね」

「そこはかとなく胡散臭くて不安なスキル名だな。絶対選んでおいたほうが良いだろ」

「ええ。そうね」


 朝の清々しい空気が不安へと変わった俺の足取りは重く、森の中へ分け入っていった。

森の中へ入ると、日差しが隠れ薄暗くなった。

 レンジャーであるアイナが先行し、草を切り前へと進む。

ふと、アイナが手を挙げる。止まれの合図だろう。


「どうした?」


 俺は小声で囁き、アイナの反応を待つ。


「前方、草葉の陰に後ろを見せている蛇の女の子がいる。名前は――」


 そう言って、端末を取り出すアイナ。


「ブラックアーボック。大丈夫、後ろからかかれば容易いわ」

「ああ」


 慎重に足音を立てずに近寄り、不意打ちを狙える範囲まで距離を詰める。


――行ける。


 そう判断し同時にアーボックに襲いかかる俺とアイナ。

アイナのナイフが蛇の首に刺さり、俺の剣で両断する。

さっきのコンビネーションプレイの再来だ。


「ぐきゅう~」


 ブラックアーボックは倒されたショックで声を上げ、ラバーストラップへと姿を変えた。


「うん?」

「どうかした、レイヴン」

「いや、ブラックアーボックが変なものを落として」

「ああ、それはスキルメモリーね」

「スキルメモリー?」

「端末に挿して使うのよ。お助けアイテムとして機能するわ。戦闘とかをサポートしてくれるのよ」

「まじかよ! 使ってみてえ!」

「ちょうどおあつらえ向きにマウスのモンスターが居るわ」


いかにも無害そうなマウスの女の子にかわいそうだが、スキルを試し打つ。


「スキルセット! ぶらっくかれー!」


 辺り一面に、黄色の粉塵が立ち込める。


「うわっ、こ、これは目、目がっ」


 それは一瞬のことで、風に拐われて消えた後には、目を回して倒れているマウスの少女がいた。


「ちなみに私は防毒マスクを持っているから、平気よ」

「ちゃっかりしてんな!」

「まあ、このへんでチュートリアル完了と言ったところね。さ、冒険を続けましょ」

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