第34.5話 vsジャガーズ【4回表】バックトゥバック②

「渚、どうしてあのとき……」


 ジャイロのサインを無視したんだ、と言いかけた俺は口をつぐんだ。

 渚の少し潤んだ視線が、俺の両目をしっかりととらえていたからだ。


「――まさか知っていたのか。『スピットボール不正投球』のことを……」


 うん、と視線を外した渚が小声で呟いた。

「『すぴっとぼーる』っていうのはよくわからないけど、さすがに9人も投げ続ければボールがおかしいことぐらいわかるよ。キャッチャーがいきなりジョーっていうのも変だったしね。これも『未来戦術』なの?」

 寂しそうに笑う渚。

「渚、本当にすまな……」

「ううん、いいの。謝らないで」


 渚が静かに、しかし毅然とした声で俺の言葉を遮った。

「エージが私たちのためにあの『未来戦術』を使ってくれたっていうこと、わかってる。私たちのために内緒にしてくれてたっていうのも知ってる」

 ごめんね、ジョー。と渚がうつむくジョーに声をかけた。


「でも、ズルはだめでしょ? だって私たち、正々堂々野球をやってるんだもん。だから、ダガーJへの一球はその罪滅ぼしなの」

 これでおあいこでしょ? と渚が首を傾げて笑顔を見せる。

「でも、アレックスに打たれたのは本気のSFFだったけどね」と舌を覗かせる渚。


 この荒廃した世界で、野球は彼女たちの生きる糧であり、希望そのものだ。それを俺は踏みにじろうとしていた。


「――――」


 謝罪の念がMAXを超越した俺はかけるべき言葉が見当たらず、無言で渚の華奢な体を抱きしめる。

「きゃああ!」両目を押さえる麗麗華。

「ちょ、ちょっとエージ!? いきなりどうしたの!?」渚も目を白黒させる。俺は悟られないよう、渚の肩に目頭を押しつけ涙を拭いた。

「うわーい!」「すごーい!」「あつーい!」はしゃぐ双子。

「熱々のところ悪いんだけど、こないだのハゲみたいに腕へし折ろうか?」

 渚がすごんできたので俺はあわてて体を離した。

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