第47話 vsジャガーズ【最終回 裏】④
しかし九回裏、1アウト二塁三塁。この試合初めての絶好の機会、そして今追いつかないともう“次”はない。――しかし、彼女たちの決断ならば仕方がない。
「渚! 頑張れー!」双子の声援。麗麗華は両手を握り締め、ぎゅっと目をつぶっている。ネクストサークルから固唾を呑んで見つめる八重ちゃん。
逡巡しつつ、俺はジャガーズの守備フォーメーションを確認する。内野は定位置、外野は浅い。バッターは、コンタクト率は高いものの非力な渚だ。アンラッキーなテキサスヒットのみを警戒し、確実に凡打で仕留める算段なのだろう。
一向にスクイズの気配を見せないまま、カウント1ストライク2ボール。ダガーJの右足が上がり、第4球が投じられた。
渚がスイングを開始し、バットがボールに触れようかという瞬間。
下を向いたままのジョーが、本塁に向かって突然のスタートを切った。
「まさかっ……!」瞬間、二塁走者の冥子も走りだす。
俺は目の前の光景が信じられずに目を見開く。
「あいつらがっ……『ギャンブルスタート』!?」
渚と冥子&ジョー以外、敵味方全員の時が一瞬止まった。
力なく響く打球音。右方向への平凡なゴロ。しかしジャガーズの内野はジョーの走塁に釣られ前に飛び出している。そのグラブをかすめて打球は外野へ転がっていく。
「SHIT!!」
三塁走者が飛び出せば、当然スクイズに備えて内野はチャージする。アレックスによって叩き込まれたであろうその反応は見事だ。しかしその堅実な反応が、最後の最後で裏目に出た。さしものアレックス・バーンバスターも、30年後の未来戦術までは読めはしない。
ジョーが派手な土煙を上げホームに突入。
生還。
「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAH!!!」
金髪を振り乱し、ジョーが咆哮する。3-3、同点。ダガーJが帽子をグラウンドに叩きつけた。
しかしまだ、俺たちの
「ボビー、まだだッ!
アレックスが外野陣に向かって叫ぶ。
逆転のランナー、冥子が猛然と三塁を蹴った。
「GO!! メーコ!!!」ジョーが右腕を回す。
「冥子、帰ってこい!!」俺もベンチを飛び出し叫んだ。 死んだ打球、予想外の事態に外野手の処理がもたついている。
「行けるぞ!!!」
サヨナラの走者は、暗黒街を生き抜いた不動冥子だ。銃弾をも超える脚力。乱れた相手陣形。あいつなら必ず、絶対に生きてホームに帰ってくる。トップスピードに乗った冥子の姿に、俺は勝利を確信した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます