第45話 vsジャガーズ【最終回 裏】②

 ネクストは冥子。

「エージ、どうする?」眼鏡のブリッジを押し上げながらキリエた小声で尋ねた。

「無死一塁、1点ビハインドの最終回。やることはひとつだ――」

 俺はバンテージを巻き直す冥子に告げた。


「冥子、暴れてこい」

「言われなくてもそのつもりだっつーの!」

 肘を伸ばし、バットを最上段に構える荒々しいバッティングフォーム。ダガーJが忌々しそうにセットポジションに入る。

「バッティング同様、やはりタイプみたいだな」

「ダガーJの打席から、配球まで読めるの……?」目を丸くするキリエ。

「ああ。二回の無死満塁しかり、安打や四球で走者を出した直後は――」

「――オラァ!」

 初球。甘いコースに迷い込んだ直球を冥子が一振りでとらえた。

「かならず真ん中高めに直球が来る」

 迷いなく振り抜かれた打球は、外野の頭を越してフェンスまで転がる。ジョーは三塁でストップ。サンライズベンチが沸き立つ。

 ノーアウト二塁三塁。二回以降初めて、ランナーをふたり送り出した。

 まずは一点。いや、渚の体力を考えたら、この最終回で逆転しないと勝ち目はない。


 打席のさららにブロックサイン。頼れる女房役が大きく頷いた。俺が出したサインは――

「初球スクイズバント!」

 が、しかし。ダガーJが投げ込んだのは、序盤で俺たちの度肝を抜いた目測150km/h近いファストボール。

「なんだと!?」

「ここに来て……!!」

(さすがのバッテリー、その手はお見通しか……しかしさららなら!)


「――――ッ!」

 さららがバットを寝かせたが、合気道の達人といえど当てるのが精一杯。力ない打球音が響く。

「しまった!」打球の行方にさららが唇を噛んだ。

 打球は後方にふらふらと上がる小フライ。俊敏な反応を見せたアレックスがダイビングキャッチし1アウト。ジョーが慌てて三塁へと戻る。

「ダガーJのやつ、ここに来てさらに球速が上がりやがった……」

 スタミナ切れを起こしていると思ったが、まだ力を隠しもっていたのか。


 歯噛みした俺の横で、次打者・海老原渚が静かにベンチを出る。

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