西晋の人たち

蔡洪   罪人の子孫   

しんが天下を統一し、

天下に広く人士を求める。

それに応じた人間の一人、蔡洪さいこう

かれはの人だ。


かれが洛陽らくように到着すると、

洛陽の人たちは半ば嘲るように、言う。


「いま、政府は人士を求めて

 薄暗い街の片隅に英傑を、

 洞窟の奥に俊賢を求めています。


 ただ、あなたは焼き尽くされた

 呉楚ごその地のひとではありませんか。

 今更あの地に賢才など

 残っているはずもございますまいに。

 何を勘違いして、出てきたんです?」


はぁ、出身地マウンティングですか。

そうですかそうですか。

蔡洪さん、さらっと言い返すよ。


「夜なお輝く宝珠は、

 必ず孟津もうしんから取れるのでしょうか?

 掌からはみ出んほどの璧玉は、

 必ず崑崙山こんろんざんで取れるのでしょうか?


 それならば

 王は東の田舎では生まれず、

 しゅうの文王は西の山間に生まれません。

 聖賢か否かが生まれに縛られるなど、

 どうしてあり得るでしょう。


 ならば伺いましょう。

 周の武王はいんちゅう王を討った後、

 なおも従わぬ殷の遺民たちを

 洛陽の近くに移住させました。


 ともなれば、貴方がたが

 彼らの子孫である可能性も

 あり得るのではないでしょうか?」




蔡洪赴洛,洛中人問曰:「幕府初開,群公辟命,求英奇於仄陋,采賢俊於巖穴。君吳楚之士,亡國之餘,有何異才,而應斯舉?」蔡答曰:「夜光之珠,不必出於孟津之河;盈握之璧,不必采於崑崙之山。大禹生於東夷,文王生於西羌,聖賢所出,何必常處。昔武王伐紂,遷頑民於洛邑,得無諸君是其苗裔乎?」


蔡洪の洛に赴くに、洛中の人は問うて曰く:「幕府の初に開けるに、群公は命に辟され、英奇を仄陋に求め、賢俊を巖穴に采る。君は吳楚の士、亡國の餘なれば、何ぞ異才有りて斯くなる舉に應ぜんか?」と。蔡は答えて曰く:「夜光の珠は必ずしも孟津の河を出でず。盈握の璧は、必ずしも崑崙の山から采りたらず。大禹は東夷に生まれ、文王は西羌に生まる。聖賢の出ずる所、何ぞ必ずしも常處ならんか。昔、武王の紂を伐てるに、頑民は洛邑に遷りたれど、諸君は是れ其の苗裔無かり得んか?」と。


(言語22)




蔡洪

呉の凄い人たちをボキャブラリーの限りを尽くして称賛する人。その時にこのエピソードも合流させたいとは思ってたのだが、さすがに長すぎるし性質が違い過ぎるので諦めましたよね。それにしてもこの人いちいちキレッキレで楽しいな。ここでも「お前らの理屈に従えばお前らは罪人の子孫って可能性も有り得るよなwwwwwww」って言い返すために論構築してるし。どうしてこう言う奴らばっかなんだ……

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