名族伝
前後漢皇帝
漢武帝 乳母どの大好き
武帝の乳母が、外で罪を犯した。
武帝、乳母の処罰を考えた。
ひい、陛下の処罰は恐ろしい!
乳母どの、武帝の知恵袋、
すると東方朔は言うのだ。
「これは言葉で争ったところで
仕方がありません。
そなたが救いを求めるのであれば、
立ち去ろうかという時に、
何度か振り返りなさい。
ただし、決して喋らないこと!
それが、唯一許される可能性の
残されている道です」
わ、わかりました!
東方朔様の仰る通りにいたします!
やがて乳母、武帝の前に。
その横には、東方朔。
乳母を見ながら、東方朔は言う。
「貴様は、実に愚かだな!
陛下が今さら貴様より
乳を受けたことなど、
この裁きの上で
考慮に入れるとでも思ったか!?」
この容赦のない言葉を背に受け、
東方朔の言葉通り、乳母は
後ろ髪引かれつつも立ち去る。
その様子を見た、武帝。
雄才にして、
苛烈な心根の持ち主であるとは言え、
それでも乳母どのを
慕う気持ちは残っていた。
あぁ、やはり予に
あのお方を裁くことなどできぬ!
遂に武帝、詔勅を下し、
乳母どのの罪を許すのだった。
漢武帝乳母嘗於外犯事,帝欲申憲,乳母求救東方朔。朔曰:「此非脣舌所爭,爾必望濟者,將去時但當屢顧帝,慎勿言!此或可萬一冀耳。」乳母既至,朔亦侍側,因謂曰:「汝癡耳!帝豈復憶汝乳哺時恩邪?」帝雖才雄心忍,亦深有情戀,乃悽然愍之,即敕免罪。
漢の武帝が乳母は嘗て外にて事を犯す。帝は憲に申さんと欲す。乳母は東方朔に救いを求む。朔は曰く:「此れ脣舌の爭う所に非ず、爾が必濟を望まば、將に去らんとせる時に但だ當に屢しば帝を顧るべし、慎みて言せる勿れ! 此れ、或いは萬一に冀いたるべきのみ」と。乳母の既に至れるに、朔は亦た側に侍り、因りて謂いて曰く:「汝、癡なるのみ! 帝は豈に復た汝が乳哺の時の恩を憶えたらんや?」と。帝は才雄にして心忍なると雖ど、亦た深く戀う情有らば、乃ち悽然と之を愍れみ、即ち敕し罪を免らしむ。
(規箴1)
デイリー世説新語も、だいぶ大詰めに入ってきました。これまでやってきた中で実感してきたのは、この時代の人びとは割と「家」単位で理解しないと仕方ないな、と言う事でした。個人で見ても、全然動向が見えてこない。その辺を踏まえるために、ここからこれまで出てきた名家の人たちのうちで拾い漏れがあった方々をフォロー。そちらをしたら、改めて世説新語の頭から拾っていきます。
そして、名族と言ったら真っ先にこの人たちを拾うしかないでしょう。前後漢皇帝、劉氏の皆様。何故かね、いらっしゃるんですよ彼ら。武帝陛下とかお前何百年前のおひとだよって感じですが、気にしなーい。
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