殷仲堪4 泰山の羊孚
かれは文学者としてもすぐれていた。
ある時
「なぜ
羊孚は答える。
「瑚璉とは、神をまつる時の器。
つまり子貢が神に連結したものである、
そうお考えになったのでしょう」
また羊孚、降雪の美しさを讃えて、
こんな一文をしたためている。
資清以化 乘氣以霏
天の清浄な気を受けて生まれた雪。
風に乗り、ふわりと舞う。
遇象能鮮 即潔成輝
降り積もれば美しく物の形を描き、
美しき物の側ではキラキラと輝く。
この言葉に感動した、桓玄の親族、
したためたという。
そんな羊孚と
弟の妻の父の妹の夫である。遠い。
羊孚の弟、
この婚礼には王訥之の父、
王臨之の娘を娶った、殷仲堪がいた。
おっ、殷仲堪がいるじゃん?
羊孚と同じく、
清談の名手として知られる彼だ。
なので早速、二人は清談を開始。
テーマは
あらゆるものは「存在する」
と言う一点に於いて、
存在価値が等しい、
と言った感じの論だ。
羊孚が論を展開した後、殷仲堪が反論。
すると、羊孚が言う。
「きっとあなたは、
あと四回もやりとりすれば、
私と意見の一致を見るだろう」
すると殷仲堪、笑って言う。
「どれだけ議論してみたところで、
同意見になぞなるものかよ」
フラグである。
そして見事に回収された。
殷仲堪は感心しながら言う。
「はっは、本当に異論が
なくなってしまったな!」
そうして嘆息すると、
かれを期待の新人として
迎え入れたのだった。
謝混問羊孚:「何以器舉瑚璉?」羊曰:「故當以為接神之器。」
謝混は羊孚に問うらく:「何ぞを以て器を瑚璉に舉げんか?」と。羊は曰く:「故より當に以て接神の器と為さん」と。
(言語105)
羊孚作雪贊云:「資清以化,乘氣以霏。遇象能鮮,即潔成輝。」桓胤遂以書扇。
羊孚は雪贊を作して云えらく:「清なるを資け以て化し、氣に乘じ以て霏ぶ。象に遇いて能く鮮やか、潔なるに即きて輝きを成さん」と。桓胤は遂に以て扇に書す。
(文學100)
羊孚弟娶王永言女。及王家見婿,孚送弟俱往。時永言父東陽尚在,殷仲堪是東陽女婿,亦在坐。孚雅善理義,乃與仲堪道齊物。殷難之,羊云:「君四番後,當得見同。」殷笑曰:「乃可得盡,何必相同?」乃至四番後一通。殷咨嗟曰:「僕便無以相異。」歎為新拔者久之。
羊孚が弟は王永言が女を娶る。王家の婿を見たるに及び、孚は弟を送りて俱に往く。時に永言が父の東陽は尚お在りて、殷仲堪は是れ東陽が女婿なれば、亦た坐に在り。孚の雅善理義なるは、乃ち仲堪と齊物なると道う。殷の之を難ぜるに、羊は云えらく:「君が四番の後、當に同じきを見たるを得たらんか」と。殷は笑いて曰く:「乃ち盡きを得たるべし、何ぞ必ずや相い同じからんか?」と。乃ち四番の後に一通なるに至る。殷は咨嗟して曰く:「僕は便ち以て相い異なりたる無かりき」と。歎じ新拔者と為すこと之に久しうす。
(文學62)
瑚璉
いやその説明じゃ納得できませんよ。なんだそれ。と言うわけで子貢について調べてみると、孔子高弟の中で、特に表現能力に卓越している人物であった、とのことだ。つまりそれを天与の才と見なした、と言う感じになるのだろうか。いや分かりづらいですよ孔丘センセー……
桓胤
桓沖の孫。つまり桓玄から見れば従兄の息子。劉裕が桓玄一派を粛清した時、桓沖の嫡流だけは国を守った英雄の一族だから、と殺さずにおいた。ら、のちに殷仲文らがこの桓胤を旗印に掲げ、謀反を起こす。結果桓胤始め謀叛を企てた者たちは皆殺しとなったのだが、……そういやこんなケースを抱えてる以上、そりゃ劉裕、司馬徳文殺しますわよね……。旗印としてのヤバさ、どう考えても桓胤の比にならんもの……。
王臨之、王訥之
王彪之の子と孫。ついでに言うと王訥之の息子の王准之は宋書に伝が載る高官。まぁそれにしたって一瞬で「えっ王導基準だとどの辺に位置する人!?」とは答えづらい。だいぶ遠い。劉注には羊孚、殷仲堪の奥さんの名前も込みで載っているので、ざっとその辺をまとめてみましょう。
王臨之┬王訥之─
└
ほんに「妻は家族じゃないのでノーカン」論によってこの頃の貴族さまの近親婚は本気でやべえ。いろんなところでいろんな家門がぐっちゃぐちゃに入り乱れてて「いやお前らみんな親戚じゃねえか」みたいなコメントですべての血縁関係を片付けたくなってきます。
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