王衍7  弟の王澄    

兄をして、こいつに存在を

認識されていれば、それで名士だ……

とまで言わしめた人、王澄おうちょう


彼の人となりについて、

少し追ってみよう。


彼は、兄の王衍おうえんに対して言っている。


「兄上は、そこにありながらにして

 既に道と合一されているかのようだ!

 もっとも真にそれを申し上げるには、

 その意志がいささか

 お強くあらせられる気もするが」


これに対し、王衍は答えている。


「そなたが落ち着き、

 素朴であり続けるのに比べれば、

 どうしても叶わぬよ」



また、息子の王徽おうきに対しては。

「日に日に風格を増しているな。

 お前の成長が喜ばしくてならんよ」


まぁそんな王徽、劉惔りゅうたんさんから

「王徽を凄いと思い込みたいのは、

 立派な松の下に爽やかな風が

 吹いていてほしい、という願望と

 何ら変わらんよ」

と、ぶった切られているのだが。



ともあれ。

そんなことを言っている王澄さん、

では、どんなキャラだったのだろうか。

こんなエピソードがある。


王澄が荊州刺史けいしゅうししに任命された。

そこで任地に赴く王澄を、

王衍をはじめとした当時の名士たちが

こぞって見送りに来て、

道みちを埋めつくす。


とんでもないセレモニー状態だ。

が、王澄。そんなものにはまるで無関心。


家の庭に植わっている大樹の上に

カササギの巣があるのに気づくと、

王澄、上着を脱ぎ、カササギの雛鳥を

取ろうと、木によじ登り始めた。


が、途中で下着が枝に引っかかる。


あぁもう、面倒くさい!


王澄、木のたもとに多くの名士たちが

ひしめいているのになどお構いなしで、

なんと、下着すら脱ぎ去ってしまった!


そして無事カササギのひなを手に入れて

降りてくれば、そのひなを弄るのに夢中。

居並ぶ名士たちなど、

まるでいないかのように

振る舞うのだった。




王平子目太尉:「阿兄形似道,而神鋒太俊。」太尉答曰:「誠不如卿落落穆穆。」

王平子は太尉を目すらく:「阿兄が形は道に似たり、而して神鋒は太いに俊なり」と。太尉は答えて曰く:「誠に卿の落落穆穆たるに如かず」と。

(賞譽27)


王平子與人書,稱其兒:「風氣日上,足散人懷。」

王平子は人に書を與え、其の兒を稱うるらく:「風氣は日に上り、人をして散ぜるを懷かしむに足る」と。

(賞譽52)


劉尹云:「人想王荊產佳,此想長松下當有清風耳。」

劉尹は云えらく:「人の王荊產の佳なるを想うは、此れ長松が下に當に清風有らんと想いたるのみ」と。

(言語67)


王平子出為荊州,王太尉及時賢送者傾路。時庭中有大樹,上有鵲巢。平子脫衣巾,徑上樹取鵲子。涼衣拘閡樹枝,便復脫去。得鵲子還,下弄,神色自若,傍若無人。

王平子は出でて荊州と為り、王太尉、及び時賢の送りたる者は路に傾く。時に庭中に大樹有り、上に鵲が巢有り。平子は衣巾を脫ぎ、徑ちに樹に上りて鵲が子を取らんとす。涼衣の樹枝に拘閡せば,便ち復た脫ぎ去る。鵲子を得て還じ、下りて弄ばば、神色は自若にして,傍らに人無きが若し。

(簡傲6)




なんだこいつ(なんだこいつ)


なんかもう、駄サイクルの極みみたいな趣がございますわね……言うてこの時代の人たちをそんなふうに断じちゃうのは、なにがしかの罠にハマっちまってそうな気もするのだが。


ひとまず、王澄のプライドの高さだとか、そういったのを堪能させていただきました。

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