王衍2  諸葛宏遠流さる 

諸葛宏しょかつこうという人がいた。

彼は小さな頃から学問を

ことのほか嫌っていた。


が、その清談のスキルは、異常。

当時のトップセイダニスト、

王衍おうえんさんも、彼に対しては


「君はヤバいな!

 君が少しでも研鑽しようものなら、

 もっとヤバくなりそうだ!」


おぉ、褒めてアゲるムーヴ。

王衍さん、心得ていらっしゃる。


それで諸葛宏、どれどれ、と老荘ろうそうを読む。

チョロい。


ただし、それによって諸葛宏の清談は、

普通に王衍と拮抗するレベルにまで

至ったそーである。



そんな若き天才、諸葛宏だったが、

親族には恵まれていないようだった。


継母、及びその親族と、利害が矛盾。

よって彼女ら一派から誣告された。

いわく、諸葛宏はトチ狂い、

反逆を目論むようになった、と。


残念なことに、この誣告は受理された。

諸葛宏は流罪に処せられた。


いざ出立、というとき、

諸葛宏を載せた輿のところに、

王衍たちがやってくる。


「なぁ、俺はどんな咎で

 追放されることになったんだ?」


諸葛宏が尋ねると、王衍が答える。


「狂い、反乱しようとした、

 とのことだ」


それを聞き、諸葛宏はひとりごちる。


「反乱を企てたのであれば、

 殺すべきだろう。

 狂ったのであれば、

 追放するまでもあるまい」


ぇえ……白馬論じゃあるまいし……




諸葛宏年少不肯學問。始與王夷甫談,便已超詣。王歎曰:「卿天才卓出,若復小加研尋,一無所愧。」宏後看莊、老,更與王語,便足相抗衡。

諸葛宏は年少にして學問を肯んぜす。始め王夷甫と談ぜるに、便ち已にして詣を超ず。王は歎じて曰く:「卿が天才は卓出す、若し復た小や研尋を加うらば、一にも愧づる所無し」と。宏は後に莊、老を看、更に王と語らば、便ち相い抗衡せるに足る。

(文學13)


諸葛宏在西朝,少有清譽,為王夷甫所重,時論亦以擬王。後為繼母族黨所讒,誣之為狂逆。將遠徙,友人王夷甫之徒,詣檻車與別。宏問:「朝廷何以徙我?」王曰:「言卿狂逆。」宏曰:「逆則應殺,狂何所徙?」

諸葛宏の西朝に在れるに、少きより清譽有り、王夷甫に重んぜらる所と為り、時論は亦た以て王に擬う。後に繼母の族黨に讒ざる所と為り、之を誣し狂逆と為す。將に遠きに徙さんとさるに、友人の王夷甫の徒は、檻車に詣で與に別る。宏は問うらく:「朝廷は何ぞを以て我を徙さんか?」と。王は曰く:「言えらく、卿は狂逆す、と」と。宏は曰く:「逆なれば則ち殺に應ぜん、狂わば何ぞの所に徙さんか?」と。

(黜免1)




諸葛宏

琅邪ろうや諸葛氏だから、まぁ名族である。とは言えどの系列なのかはよくわからない。とりあえず後段を見る感じだと、正論詭弁を操って相手を詰めていくところがありそうである。ただ継母との確執ともなると、またいろいろ厄介そうだよなぁ。継母からすれば「有能な前妻の息子」とか目障りにもほどがありそうだし。

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