王戎9  王戎さんはケチ 

王戎おうじゅうさんはケチである。


甥が結婚することになったので、

一着の着物を与えた。

が、後々ずっとその一着のことを

引きずるのだった。



そもそも王戎と言えば司徒しと

すなわち三公、天下一のセレブである。

家や従僕たち、庭園、水車小屋など、

洛陽らくようで並ぶ者はいないほどの

ゴージャスさ。


なの、だが。


自宅には、たくさんの証文たち。

これの管理を、王戎さん、

他人には任せない。


ろうそくの下で、奥方と一緒に、

そろばんを振り回し、

飽くことなく家財の計算に

勤しんでいるのだった。



家財の管理。

それがどういうレベルのものなのか、

という逸話もある。


王戎の家には

とても美味なスモモの木があり、

王戎、これを販売してお金を得ていた。


が、このうまいスモモが、

よその家に生られてしまったら

商売あがったりである。


そこでスモモを販売する時には、

全てのスモモの種にキリで穴を開け、

芽が出ないように

細工していたそーである。




王戎儉吝,其從子婚,與一單衣,後更責之。

王戎は儉吝なれば、其の從子の婚ぜるに、一なる單衣を與えど、後には更ごもに之を責む。

(儉嗇2)


司徒王戎,既貴且富,區宅僮牧,膏田水碓之屬,洛下無比。契疏鞅掌,每與夫人燭下散籌筭計。

司徒の王戎は既に貴く且つ富み、區宅や僮牧、膏田や水碓の屬にても、洛下に比ぶ無し。契疏は掌に鞅し、每に夫人と與に燭下にて籌を散じ筭計す。

(儉嗇3)


王戎有好李,賣之,恐人得其種,恆鑽其核。

王戎は好李を有み、之を賣れるに、人の其の種を得るを恐れ、恆に其の核を鑽ず。

(儉嗇4)




王戎と言えば、ケチ。スモモとも相性がいい感じですね。このドケチっぷりは、周囲の人に呆れられていたそうである……だが、この貨殖家ぶりを、東晋時期の隠者戴逵たいきは「これが彼なりの韜晦行為だったのだろう」と評価している。


八王の乱すら乗り切ってるもんな、この人……嵆康けいこうがそのこと知ったら、爆笑したんじゃなかろうか。そして王戎が言うんだ。


「うっそ、叔夜の爆笑初めて見たわ……」

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