嵆康4  身を保ちたるの道

嵇康けいこうきゅう郡の山中を散策していると、

孫登そんとうという隠者と遭遇した。


ふたりは暫しともに散策し、

語らい合った。


やがて、嵆康が帰ろうとする。


すると孫登、嵆康に語った。


「あなたの才覚は図抜けたものがある、

 だが、非常にアンバランスだ。


 身を全うするための処世が、

 足りていない」




嵇康遊於汲郡山中,遇道士孫登,遂與之遊。康臨去,登曰:「君才則高矣,保身之道不足。」


嵇康の汲郡が山中に遊べるに、道士の孫登と遇い、遂に之と與に遊ぶ。康の去らんとせるに臨み、登は曰く:「君が才は則ち高かれど、身を保てるの道には足りず」と。


(棲逸2)




孫登

当たり前っちゃ当たり前だが、ググっても三国孫権そんけんの嫡子しか出てこない。とは言え晋書しんしょ隱逸伝のトップバッターではあったりする。そこでは、「僕に生きるヒントをください!」と、三年がかりで口説いた嵆康に対し、以下のように語っている。つまり、だいぶニュアンスが違う。



子識火乎?

 あなたは火を知っているか?


火生而有光

而不用其光

果在於用光

 火は光を帯びている。

 しかし光は結果として

 生み出されたものであり、

 燃える、という行為には

 本来、関わりがない。

 ならば、火に関わるものが、

 どう用途を考えるか、となる。


人生而有才

而不用其才

而果在於用才

 人にとっての才能も、

 また火における

 光のようなものだよ。

 さて、どう役立てたものかな。


故用光在乎得薪

所以保其耀

 火の光によって薪を見出す。

 その薪を火に放り込むことで、

 火は光を発し続ける。


用才在乎識真

所以全其年

 才能における薪は、

 何に相当するのかな。

 思うに、それは見識ではないかな。

 見識を得ることで、

 人は生を全うするのだ。

 

今子才多識寡

難乎免於今之世矣!

 これまで、話を聞いた中で、

 あなたに才があるのはわかった。

 が、悲しいかな、

 見識が足りていない。

 そのようでいては、この世の中で

 難を逃れることは難しいだろう。


子無求乎?

 あなたは、

 何故見識を求めないのだ?

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