何晏4  三賢者フルボッコ

何晏かあん鄧颺とうよう夏侯玄かこうげんの三人は

弁の立つひとたちだった。


そんな彼らは、さらなる声明を求めて、

当時に高邁で知られた傅嘏ふか

よしみを持ちたいと、傅嘏を訪問した。


が、傅嘏、一蹴。


そこで三人、荀彧じゅんいくの末っ子、荀粲じゅんさん

間を取り持ってもらう事にした。


荀粲、傅嘏に語りかける。


「夏侯玄くんは今をときめく名士。

 そんな彼が、あなたを

 尊敬してやまないというのだ。

 だというのに、あなたは

 それを突っぱねておられる。


 いいではないか、一回会ってみて

 相性が良ければよし、

 悪ければやはり付き合わない、

 という感じで。


 あなたと夏侯玄くんが親しくなるのは

 この国にとっても喜ばしいことだ。

 例えるならば、そう、

 藺相如りんしょうじょ廉頗れんぱに頭を下げるかのような

 レベルの話だと思うのだ」


あのなぁ、と傅嘏は言う。


「問題はそこではない。

 あの三人に近づくことそのものが危ない、

 と言っているんだ。


 何せ夏侯玄は、志こそ大きいものの

 何かにつけ落ち着きがない。

 あれはその口先で国を傾ける類だろう。


 何晏や鄧颺は、何かとやかましい。

 いろいろ知っているようでいて、

 とるに足らない雑学ばかり。

 肝心かなめの知識には乏しい。


 外面を良くして人脈を築こうとしても

 その内面はどこまでもだらしがなく、

 自分と意見の似たものを大切にし、

 意見が違うものは排斥する。


 いろいろ何ごとかを語ってみれば、

 既に功績を成し遂げた者たちへの

 妬み嫉みばかり。


 口数が増えれば増えただけ敵を作る。

 他人への妬み嫉みを口にする奴と、

 誰が親しくしたいと思うだろうか?


 三賢者さまは、等しくロクデナシだよ!

 あれらを敬遠してすら、いつ、

 とばっちりを食らうかわからんのだ。

 そんな三賢者さまに、

 敢えてお近付きになれ、と?」


荀粲としても、そこまで言わんでも……

という感じではあっただろう。


だが後日、三賢者さまは皆、

曹爽そうそう派として司馬師しばし

皆殺しを食らっている。

 



何晏、鄧颺、夏侯玄並求傅嘏交,而嘏終不許。諸人乃因荀粲說合之,謂嘏曰:「夏侯太初一時之傑士,虛心於子,而卿意懷不可,交合則好成,不合則致隙。二賢若穆,則國之休,此藺相如所以下廉頗也。」傅曰:「夏侯太初,志大心勞,能合虛譽,誠所謂利口覆國之人。何晏、鄧颺有為而躁,博而寡要,外好利而內無關籥,貴同惡異,多言而妒前。多言多釁,妒前無親。以吾觀之:此三賢者,皆敗德之人耳!遠之猶恐罹禍,況可親之邪?」後皆如其言。


何晏、鄧颺、夏侯玄は並べて傅嘏との交を求めど、嘏は終に許さず。諸人は乃ち荀粲に因りて說きて之に合わしめ、嘏に謂いて曰く:「夏侯太初は一時の傑士にして、子に心を虛とす、而して卿は可ならざるを意い懷く。交わり合さば則ち好み成り、合さざらば則ち隙を致さん。二賢、若し穆まじかば、則ち國が休たらん。此れ藺相如の以て廉頗に下りたる所なり」と。傅は曰く:「夏侯太初は、志は大かれど心勞わしく、能く虛と譽とを合す。誠にいわゆる利口覆國の人なり。何晏、鄧颺は為せるに躁有り、博きも要は寡なく、外に利を好めるも內にては關籥無く、同を貴び異を惡み、言多くして前を妒む。言多かれば釁多く、前を妒まば親無し。以て吾れ之を觀るに、此の三なる賢者、皆な敗德の人なるのみ! 之を遠ざけ猶お禍の罹りたるを恐る、況んや之に親しくすべからんをや?」と。後に皆な其の言が如くとなる。


(識鑒3)




鄧颺

光武帝劉秀りゅうしゅうのナンバーツー、鄧禹とううの子孫ですから超エリート家系。でもここだと何晏さんのお友達Aくらいの扱いでしかないし何晏さんと一緒に殺されてる。


傅嘏

中原名士の一人、裴楷はいかいから「広大無辺でありながら、備わっていないものがない」として、同時代人の鍾会しょうかい山涛さんとうと共に評価されている。まぁ何でしょう、賢人にして、ものすごく懐の広い人、というところでしょうかね。その功績を追っていると後に政争に破れ殺される人たちとは徹底的に距離を置いていたり、自分の名声が変に高まらないように功績をマイナス報告っぽいこともしてる。


荀粲

荀彧じゅんいくの末っ子。儒の大家っぽい父親とは真逆で「儒とは先人の残りかすにすぎない」的なことを言い切ったらしい。親父さんと仲悪かったのかしら。どうもこの人の思想をさらに進めたのが何晏や王弼の打ち立てた「清談」のルーツらしいという事で、清談の系譜的にも割と重要な人物のようだ。の割に世説新語じゃえっらい影薄いです。


藺相如・廉頗

いわゆる「刎頸ふんけいの交わり」。戦国時代、ガンガン勢力を広げるちょうの脅威にさらされていたちょうきっての名士だった二人だが、とにかく仲が悪かった。しかしあるとき廉頗の素晴らしさに藺相如は気付かされ、ともに手を携えるべき相手だ、と頭を垂れ、以降二人は協力して秦と闘い、両名が健在であったとき、秦は趙を倒すことができなかった。

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