謝安63 苻堅の息子   

前秦ぜんしんの皇太子、苻宏ふこう淝水ひすいの戦いののち、

東晋へと降ってきた。


謝安しゃあんさまに招待を受けて

宴席にやってくるごと、

苻宏は己が才を鼻にかけ、

座上では驕慢に振る舞っていた。

そして、敢えて諫める者もいなかった。


ある宴席のことである。


座上に、王徽之おうきしが現れた。

ウザ絡み大王だが、

ひとかどの論客でもある。


どうだい苻宏くん、

君ほどの才なら彼と論を交してみても

面白いんじゃないかね?


謝安さまの挑発に、苻宏、

よーしやったりますよ、と奮い立つ。


の、だが。


ちょっと話したら、王徽之、

突然言葉を打ち切り、

じっと苻宏を見る。


それから謝安さまのほうに

向きなおると、言うのだ。


「ええと、特に際立って

 優れているようには

 思えないんですが……?」


明らかに素で言われている。

苻宏、恥ずかしさのあまり、

逃げ出した。




符宏叛來歸國。謝太傅每加接引,宏自以有才,多好上人,坐上無折之者。適王子猷來,太傅使共語。子猷直孰視良久,回語太傅云:「亦復竟不異人!」宏大慚而退。


符宏は叛き來て、國に歸す。謝太傅の接引を加うる每、宏は自ら才を多きに有すを以て人が上を好み、坐上に之を折る者無し。王子猷の來たるに適い、太傅は共に語らしむ。子猷は直ちに孰視せるを良や久しうし、回りて太傅に語りて云えらく:「亦た竟には復た人に異ならじ!」と。宏は大いに慚じ、退がる。


(輕詆29)




苻宏

前秦天王苻堅ふけんの皇太子。苻堅が西燕に攻め立てられている中長安を脱走、流浪の末東晋に。そこではもてはやされたようだが、まぁ、お坊ちゃん、だったんでしょうね。


その後西府の桓玄かんげんの元につき、武将として働くが、クーデターを起こした劉裕りゅうゆうの前に敗れ去り、殺された。せつねえなぁ……。


つーか世説新語は頑なに苻氏を「符」で押し通しますね。

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