謝安46 謝安と王珣2  

王珣おうしゅんは、謝安しゃあんさまと、

いろいろあって最悪の仲になっていた。


っが、会稽かいけいで過ごしていたときに

謝安さまが亡くなった、と聞き、

建康けんこうにまで出向いて、

親戚の王献之おうけんしに語った。


「謝安殿を弔いたく思うのだ」


その訃報に嘆き臥せっていた王献之、

王珣のその発言を聞き、驚き飛び上がる。


「そうか! 実のところぼくも、君には

 そうしてほしいと思っていたのだ!」


謝安さまの屋敷に弔問する王珣。

だがその行く手を、門番の刁約ちょうやくが阻む。


「これはこれは、王法護ほうご様。


 不思議ですね、我が主が

 ご健在であらせられた時、

 この屋敷であなた様の

 ご尊顔を拝したことは

 ございませんはずでしたが?」 


さすが謝安さんちの門番である。

割と皮肉がゴッツい。


が、王珣。そんな刁約をシカト。

謝安さまの側まで寄ると、

その慟哭はすさまじいものであった。


とは言え、そもそもにして

両者の仲は最悪であった。

故に謝安さまの嫡子である

謝琰しゃえんには一瞥もくれず、

速やかに立ち去るのだった。




王東亭與謝公交惡。王在東聞謝喪,便出都詣子敬道:「欲哭謝公。」子敬始臥,聞其言,便驚起曰:「所望於法護。」王於是往哭。督帥刁約不聽前,曰:「官平生在時,不見此客。」王亦不與語,直前,哭甚慟,不執末婢手而退。


王東亭と謝公とは交わり惡し。王の東に在れるに謝が喪を聞き、便ち都に出で子敬に詣でて道えらく:「謝公を哭さんと欲す」と。子敬は始め臥せるも、其の言を聞き、便ち驚き起きて曰く:「法護に望みたる所なり」と。王は是に於いて往きて哭す。督帥の刁約は前むを聽さず、曰く:「官の平生に在りし時、此の客を見ず」と。王は亦た語らず、直に前み、哭せること甚だ慟しく、末婢が手を執らずして退る。


(傷逝15)




刁約

当たり前のようにここにしか出て来ない。この皮肉の利かせ方とか、かなりおいしいキャラだとは思うんだけどなー。まぁ、仕方ない。たぶん刁彝ちょうい辺りとは親族なんでしょうけどねー。さすがに墓誌でも出て来ない限り探りようがないかな。


謝琰

謝安の禄を継いで東晋末の名将として名を馳せる。淝水ひすいの戦にも将軍として従軍、五斗米道ごとべいどうの乱が起きた時にも司令官としての功を挙げた。まぁ五斗米道がリベンジしてきたときに部下に殺されちゃうんですけどね。人品的にはだいぶアレさが漂ってます。

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