桓温48 襄陽の羅友さん 

襄陽じょうよう羅友らゆうは大物であった。

が、大物過ぎて、

若い事はただのバカと思われていた。


ある時、近所で祭祀が催されると聞き、

じゃあそこで食いもんに在りつこうと

羅友は朝早くに出かけた。

だが、あまりに早すぎたため、

まだ祭祀の準備すら整っていない。

しばらく待っていると祭主が現れ、

待ち受けていた羅友を見、ぎょっとした。


「おま、いくらなんでも朝早すぎだろ。

 何がしたいんだよお前」


「あなたが今日祭祀を行うと聞いたから、

 じゃあ飯にありつけるな、

 って思ったんです」


あーそう? まぁ勝手にすれば?

祭主としても羅友に構ってられない。

準備を進め、やがて日の出とともに

祭祀をスタート。

門の側でひっそり待機してた羅友、

ようやく喰いもんにありつき、

その後特に恥じ入る様子もなく、

堂々と立ち去った。


そんな羅友、

とにかく記憶力が抜群である。

桓温かんおんさまの成漢せいかん討伐に従軍、

成都せいとの城を検分して回り、

道々の幅、植生などを記憶して回った。


後日桓温さま、

建康けんこうにほど近い長江ちょうこうの河岸、

溧洲りっしゅう簡文かんぶんさまらと集って宴会を開催。

羅友もここに同席し、

しょくについての話が出ると、

桓温さまのフォローに回る。

桓温さまの記憶があいまいな部分を

すべて補足してみせたのだ。


その情報の精緻なことに驚き、桓温さま、

蜀についての帳簿を取り寄せ、

羅友の証言と照合してみた。

すると、気持ちが悪いくらいに合致。

宴会の参加者はみなビビる。


参列していた謝安しゃあんさまも、思わず

「羅友くん、魏舒ぎじょかよって感じですよね」

とコメントしている。


魏舒と言えば西晋の時代、

鍾毓しょういくさんの部下として仕えていた、

どうにもぼーっとしていたが、

その射撃の腕前がずば抜けていて、

鍾毓さんに「えっなにお前、

そんなすげえ才能あんの!」

ってビビられた人だ。

そしてその一件から立身している。


羅友もこの例にもれず、

広州刺史こうしゅうししに抜擢された。


羅友が広州に向かおうとした時、

桓温さまの弟、桓豁かんかつに招待を受けた。

任地に赴く前に語ろうぜ、というのだ。

が、羅友は言う。


「すみません、先約がありまして。

 そいつ、すっげえ貧乏なのに、

 酒も料理も奮発するんですよ。


 なにより、旧交の深い間柄です。

 将軍からのお招きにつきましては、

 次回、という事でよろしいでしょうか」


えーマジかよ、桓豁さん、

羅友のこの言葉を疑う。

人を遣って羅友を付けさせた。


すると羅友、荊州府けいしゅうふで働く小役人の家で

リラックスした様子で語らい合っていた。

その様子は、セレブを前にしてた時と

全く変わらなかった。


また、蜀に滞在していた頃には

自分の子に


「実はな、うちには

 五百人の客に食事を出せるだけの

 食器があるんだぜ」


と言い出した。


えっマジで!?

ビビったのは他ならぬ家族である。

さて実際に家の中を探すと、

確かに出てきました、五百人分。


と言っても二百五十個の、

中に仕切りが立てられた

食器だったんですが。




襄陽羅友有大韻,少時多謂之癡。嘗伺人祠,欲乞食,往太蚤,門未開。主人迎神出見,問以非時,何得在此?答曰:「聞卿祠,欲乞一頓食耳。」遂隱門側。至曉,得食便退,了無怍容。為人有記功,從桓宣武平蜀,按行蜀城闕觀宇,內外道陌廣狹,植種果竹多少,皆默記之。後宣武漂洲與簡文集,友亦預焉。共道蜀中事,亦有所遺忘,友皆名列,曾無錯漏。宣武驗以蜀城闕簿,皆如其言。坐者嘆服。謝公云:「羅友詎減魏陽元!」後為廣州刺史,當之鎮,刺史桓豁語令莫來宿。答曰:「民已有前期。主人貧,或有酒饌之費,見與甚有舊,請別日奉命。」征西密遣人察之。至日,乃往荊州門下書佐家,處之怡然,不異勝達。在益州語兒云:「我有五百人食器。」家中大驚。其由來清,而忽有此物,定是二百五十沓烏樏。


襄陽の羅友には大韻有り。少き時、多きは之を癡と謂う。嘗て人の祠を伺いて、食を乞わんと欲す。往けるに太いに蚤く、門は未だ開かず。主人は神を迎えんと出づるに、見て問うらく「以て時に非ざるに、何をか得んと此に在らんか?」と。答えて曰く「卿の祠るを聞き、一頓の食を乞わんと欲すのみ」と。遂には門の側に隱る。曉の至るれば、食を得て便ち退り、了には怍づる容無し。人の為りを記すの功有り。桓宣武の平蜀に從う。蜀城の闕觀や宇の內外を按行し、道陌の廣狹、植わりたる果竹の種の多少を皆な之を默記す。後に宣武は漂洲にて簡文と集う。友も亦た預り、共に蜀中の事を道う。亦た遺忘せる所有らば、友は皆な名を列ね、曾て錯漏無し。宣武は以て蜀の城闕の簿を驗みにせるも、皆な其の言の如し。坐者は嘆服す。謝公は云えらく「羅友は詎ぞ魏陽元に減ぜんか?」と。後に廣州刺史と為り、當に鎮に之かんとせるに、刺史の桓豁と語り、莫れには來宿せしめんとす。答えて曰く「民には已に前期有り。主人は貧しく、或いは酒饌の費え有り。見ゆるに甚だ舊有らば、別日に命を奉ぜるを請ゆ」と。征西は密かに人をして之を察しむれば、日に至り、乃ち荊州門下書佐の家に往き、之に處りて怡然たること、勝達に異ならず。益州に在れるに、兒に語りて云えらく「我れ、五百人の食器を有す」と。家中は大いに驚く。其の由來は清くして、忽ち此物有り。定めし是れ二百五十沓の烏樏なり。


(任誕41)




羅友

なんつーか、長文過ぎて笑った。

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